日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0114
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白滝ジオパークの現状と課題
*熊谷 誠堀嶋 英俊
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抄録

1.はじめに
 白滝ジオパーク(以下,本地域)は,北海道の東北部,オホーツク海沿岸より約20km内陸部に位置する遠軽町全域をエリアとした「自然と文化の融合」をテーマに掲げるジオパークである.2005年の町村合併により誕生した新たな遠軽町は,東西約47km,南北約46kmの広大な面積のうち90%以上が林野面積に相当する大自然に囲まれた地域である.遠軽町では, 2007年より地元有志とともにジオパーク構想に着手,2010年9月に日本ジオパークネットワーク(以下,JGN)加盟を果たした.本発表では,白滝ジオパークにおけるストーリーの構築,ジオツアーの実際とガイド養成の課題,および保全活動に向けた取組みについて述べる.

2.白滝ジオパークにおけるストーリーの構築について
 遠軽町白滝地域(旧白滝村)は,国内でも最大規模の黒曜石(岩)産地であり,後期旧石器時代遺跡の密集地帯として周知の地域であった.また,先史時代において,白滝黒曜石はサハリンや東北地方まで運搬されており,当時の物流を物語る証拠として一般の方々からも注目を集めてきた.これらの遺跡が国指定史跡として登録されたこともあり,「黒曜石」と「遺跡」という2つの遺産が地域活性化の起爆剤になりうるとの気運が高まっていた.こうした背景の中,ジオパークへの第一歩として地球科学的視点から黒曜石産地の全容を解明することが課題とされた.この調査には北海道教育大学旭川校を中心とする専門家チームがあたり,わずか2年の間に,2百数十万年前の火山活動と黒曜石の形成過程が詳細に描きだされた.
 これらの地質現象を示す痕跡(主に流紋岩溶岩の断面露頭)をメインサイトとして,天然の資源である黒曜石を利用した旧石器人の営みというストーリーを組立て,2009年度にJGNへの加盟申請を行った.しかしながら,本地域の成立に関わる多様な地質現象をとらえきれておらず,旧石器時代と関わりの深い第四紀の地形や古環境などとも関連させたストーリーづくりが必要との指摘を受け,この年の認定は見送られた.翌年,これらの課題を克服し,ストーリーに幅を持たせるとともに、NPOをはじめとした地域住民との連携体制がより強固なものとなったことが評価され,JGN加盟を果たすことができた.

3.ジオツアーの実際とガイド養成の課題
 本地域は「黒曜石」と「遺跡」というキーワードが色濃く,町内外からのニーズもこの2つに向けられている.また,このニーズに応えるかたちでジオツアーを実施してきたため,黒曜石産地を離れることはほとんどなく,ジオパークが本来持っているはずの時間的・空間的スケールを表現しきれずにいたと考えている.しかしその一方で,これらに魅了された昔ながらのファンがいたおかげで,早くから担い手となる人材を獲得することができたのも事実である.実際,ジオツアーにはこうした方々が同行し,サイトの解説を行う学芸員のバックアップを務めることで円滑にツアーが進行している.このように,本地域では黒曜石が人材獲得の導入口であり,いかに“ジオ”の要素へ視点を広げ関連付けを促していくかが課題である.
 このような現状の中,地域内の高等学校において単位制の導入に伴い,地域学の観点からジオパークと連携した通年のカリキュラムが組まれる見通しである.フィールドワークを前提とした地学教育や自然地理学教育の充実が期待されるとともに,専門家と学芸員,さらには担い手となる地域住民が一体となって取組むことによって,ガイド養成プログラム構築の糸口になるのではないかと考えている.

4.保全活動に向けた取組みについて
 本地域では,黒曜石を活用した「石器づくり」という体験学習をジオツアーのプログラムとして実施している.年々増加する消費量に対し,ジオパークとして適切な運用体制の確立が急務である.このほかにも,自然環境のメカニズムについて理解不足のまま,サイト開発を促すようなアイディアが出されることがある.ストーリーの柱である人類の資源利用を正しく伝え,持続可能な発展のための方法を提示してこそ,地域独自の保全活動につながると考えている.

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