抄録
ジオパーク化を視野に入れた湧水湿地の有意義な公開方法を検討するための基礎資料として、愛知県内の公開形態の異なる2ヶ所の湧水湿地を事例に、利用者層と利用者満足度を検討した。常時ガイドなしで公開している例として葦毛湿原(豊橋市)を、期間を限定してガイド付きで公開している例として矢並湿地(豊田市)を取り上げ、来訪者にアンケートを実施した。葦毛湿原は332名、矢並湿地は339名から回答を得た。
両湿地とも、来訪者の男女比に大きな偏りはなく、年齢層が50代~60代に集中する傾向も同様であった。しかし、葦毛湿原ではリピーターが多いのに対し、矢並湿地では少なかった。また、いずれの湿地も夫婦を含むグループでの訪問者が約40%と最も多かったが、葦毛湿原では矢並に比べて親子・恋人同士などグループの属性に多様性があった。相対的に、葦毛湿原では散策や散歩を目的とする来訪者が多い傾向が、矢並湿地では植物観察を目的とする利用者が多い傾向が見られた。
満足度を5段階で評価してもらったところ、矢並の満足度が相対的に高かった。これは、ガイドの存在が関係していると考えられた。また、満足・不満足の内容としては、自然環境や自然物を観察・体験する場としての評価だけでなく、トイレや駐車場を含めた見学施設としての評価や、他の見学者との関係に関する評価も存在した。満足内容は利用目的によっても異なっていた。これらのことから、来訪者に湧水湿地という環境や特徴的な動植物について十分な解説があること、利用者それぞれの目的を満たすような施設や自然の条件を整えることが、満足度を高める要因になると考えられた。