抄録
谷頭部は降雨を地中水として集め,表流水に転化させる“水流発生装置”として機能している地形である.水流発生地点である水路頭の上流側には明瞭な水路が形成されていない谷型斜面を呈する微地形として谷頭凹地が存在する.また谷頭凹地の下部には,かつて水路として機能していたが現在は埋没したと考えられる,浅く長い凹地(Subhollow;田村ほか 2007)がみられ,谷頭凹地の多重構造を示唆している.
本発表では関東平野西縁丘陵のうち岩殿丘陵,高麗丘陵,加治丘陵の谷頭部のそれぞれの微地形構成の特徴を比較し,岩殿丘陵の谷頭部においてSubhollow の復元からその形成過程の検討を行い,水路頭の位置の時空間的変化を明らかにして,それらが集水に関わる環境変化の指標となることを推察する.
岩殿丘陵の一谷頭部の谷頭凹地末端からは高さ約1mの水路頭を境界として下流へ水路が伸びている.この水路頭は,シルト岩基盤の溝状部を厚さ1m,幅2m弱の亜円~円礫層(斜面上部のみ存在する鮮新統~下部更新統と思われる河成礫層から斜面上を移動してきたもの)が埋めている.そこから上流に向かって谷頭凹地内に長さ10~20m,幅1~3m程のSubhollowが伸びている.
位置・形態・各傾斜変換線・土層構成の特徴からSubhollowの形成過程を復元した結果,少なくとも3回の掘削と埋積が繰り返し行われていることが判明した.その形成プロセスには,パイプ出口での小崩壊,水流発生に伴ったガリー壁の表層崩壊などの掘削および土壌匍行や表層崩壊による埋積がある.またSubhollowの掘削と埋積以外に,斜面上部からの急激な埋積と比較的緩慢な細粒物質の埋積がそれぞれある時期に起こっていることも合わせて考えられる.
各Subhollowの上端は,過去の水路頭なので,その位置は各時期の集水条件に対応していると考えられる.そのそれぞれの水路頭の位置での集水面積は約4400㎡,約8000㎡,約11000㎡等,そして現在の12,750㎡と異なっていたと考えられる.この差異は,明らかにStream flowの発生に関わる浸透水の集水条件が変化していることを示す.この変化は,埋積プロセスの発現を含め,同一の谷頭部での降雨条件の変化に対応するとみてよい.