日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 109
会議情報

発表要旨
震災による鉄道の運休と利用者の移動行動
*土'谷 敏治
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
 1.はじめに
  東日本大震災によって,ひたちなか海浜鉄道は全線にわたって震災の被害を受け,全線運行再開までには約4か月半を要した.この間,鉄道代行バスの運行を行ったが,代行バスについては鉄道運行時に比べて利用者が大きく減少し,これまでの鉄道利用者,非利用者ともに大きな影響を受けるという指摘がある.今回はひたちなか海浜鉄道を対象として,代行バス運行時と鉄道運行再開後の利用状況,利用者の対応と実際の移動行動について検討することで,鉄道の不通が利用者に及ぼす影響,復旧後の利用者の回復状況と今後の課題を明らかにすることをめざした. 

 2.調査方法
 代行バス運行時の利用者の対応と移動行動,鉄道復旧後の利用について,利用者に対するアンケート調査と旅客流動調査を実施した.アンケート調査は,ひたちなか海浜鉄道車内で利用者に調査票を配布し,利用者自身に記入を求めた.主な質問項目は,代行バスの評価,代行バスの利用状況,代行バス以外の交通手段,鉄道復旧後の鉄道の利用目的と利用頻度,居住地,性別,年齢などの個人属性である.調査は,日常的な利用者を対象とするため平日とし,2011年11月8日(火)に実施して,520人から回答をえた.なお,旅客流動調査については,アンケート調査と同じ調査日と代行バス運行時の6月22日(水)に,運賃の支払い区分別に,乗車駅,降車駅を特定した利用者数を調査した.また,震災前の状況との比較を行うため,2009年に実施した調査結果と対照した. 

 3.調査結果の概要
 回答者の属性をみると,ひたちなか市内居住者が約85%,年齢構成は10歳代が半数近くを占め,20歳代と50歳代が10%を若干上回るが,10歳代以外は年齢による偏りが僅かであった.職業構成は,約40%が高校生で,会社員が20%あまりでつづく.2009年の調査と比較すると,10歳代の高校生の構成比はほとんど違いがないが,60歳以上の利用者比率がやや低下し,会社員の割合が高まっているようにみえる.このことは利用頻度にも反映され,週4回以上の利用者が60%を超えている.復旧後の利用者の回復が,通学者,通勤者などの利用頻度の高い日常的利用者が中心である反面,高齢者の利用がやや低下していると解釈される.
 鉄道不通時の代行バスの利用については,月1回以上の鉄道利用者のうち約60%は,鉄道と同様の頻度で利用したとしているが,16%については利用しなかった回答しており,利用頻度が低かった回答も含めて,従来よりも利用を控えたとする回答が約40%に達した.これらの回答者の対応をみると,その40%以上が家族等に送迎してもらっていたとし,鉄道がない場合自分自身の移動手段をもたない人々と考えられる.他方,自転車やバイクが17%,自分の運転する自動車が11%で,自らの代替交通機関を持ち,場合によっては公共交通機関を使用しなくなる可能性の高いグループといえる.さらに,10%あまりは外出を控えたとしている.代行バスの運行についての評価は,半数以上がとても役に立った,約30%がある程度役に立ったとしており,あまり役に立たなかったという意見は5%にも満たなかったことから,ひたちなか海浜鉄道による代行バスの運行は,高く評価されているといえる.
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top