日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 413
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発表要旨
沖縄県与那国島における馬飼育の展開と存立基盤
*坂下 由衣
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抄録
馬は,世界各国において,牛と共に役畜として移動・運搬・軍用などに使役されてきた.このような牛馬の役割が,日本では戦後1970-1980年代にかけて,機械やその他技術の発達によって置き換えられていった.とくに馬は,肉用としての需要が牛のように広く普及しなかったため,より急激に頭数を減少させることとなった.2008年時点,日本において約83,000頭の馬が飼育されているが,そのうち約半数は競馬用として,約1割が食肉用として飼育されている.これらの飼育目的において,従来役畜として使役されていた頃にみられたような,日常的な馬と人の関わりをみる機会は,かなり限定されている. しかし現代日本においても,沖縄県与那国島では,いまだ馬と人が共存している姿が見られる.
 与那国島は,日本の最西端に位置する離島である.島の面積は28.95k㎡であり,2011年8月末日現在の人口は1,618人,798世帯である.肉用牛の生産が,島の経済を支える産業となっており,2009年時点で,68戸の牛の生産・飼育世帯で,1,884頭の牛が飼育されている.このため,大小24の牧場(約490ha)が島内に設けられている.一方,馬も,148頭がこれら24の牧場のうち3つの共同放牧場内外で飼育されており,牧場区域内では馬の群れが道路を歩いているのを目にするほか,普段から近所の道端や庭先につながれていたりする.これらの馬は,現代において農耕用,移動用として必要とされないのはもちろん,肉用としては小型すぎて採算が取れないため,市場取引されない.
本研究では,与那国島において人と馬の共存を成り立たせている条件として,与那国の在来馬を対象とする「保存活動」に着目する.本日の発表では,いままで明らかでなかったこの「保存活動」の実態を詳しく報告するとともに,そこから読み取れる結果として,もともとの島出身者に対して島外から来島・移住した人々がもたらした影響について考察する.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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