日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 619
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発表要旨
現地学習を中心にした災害復興学の実践
*山田 浩久
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抄録

 山形大学は,2011年12月15日,宮城教育大学,福島大学と共に,学長の共同声明という形で「災害復興学」を立ち上げた。本研究は,現地視察や住民との直接対話による災害復興学の実践過程を報告するものであり,講義を通して変化していった学生の思考や授業の進行に伴って発生した諸課題を指摘することを目的とする。 本研究で報告する講義は,2012年度後期開講の「地誌学」であり,現地調査の対象地域は宮城県東松島市である。当初は自由参加型の研修のような形式での実施も検討されたが,それでは学生のモチベーションを維持できないとの判断から,成績評価による単位取得を前提にした講義形式での実施となった。しかしながら,15コマという時間的制約と片道2時間の行程によって,現地学習は10,11,12月の計3回となり,実施日も講義のない土曜日に行うという変則的な時間割になった。また,現地学習の際には,山形県内のボランティア活動家の補助を受け,事前調査や現地協力者とのコンタクトを図った。 教室内で行う座学の講義12コマのうち8コマは,オリエンテーション,現地学習の事前講義(2コマ×3),第3回現地学習後のレポート作成指導にあてた(~12月)。本要旨作成時にはまだ講義は完結していないが,残り4コマは,年明け後,冬季休業中に作成したレポートをもとにグループ・ディスカッションを行い(3コマ),2月に報告会を行う予定である。 第1回現地学習(10月)の事前講義では,東松島市の位置や地形を地形図から確認し,市史や統計資料をもとに同市の地誌学的な概況を紹介した後,本学自然地理学担当教員が東日本大震災の発生メカニズムに関する講義を行った。さらに,ボランティア活動家から震災当時の被害状況や支援の実態を伝えてもらった。同現地学習は,東松島市内で最も大きな被害を蒙った大曲地区で行った。その目的は,学生達に津波被害の爪痕を実際に見てもらうことと,その中で海苔養殖の復興に携わる人々の声を聞いてもらうことであった。津波による惨状を見て言葉を失う学生もいたが,大半は前向きに頑張る海苔養殖業者の声を聞き,「逆に元気をもらった」という感想を帰路の車内で述べていた。また,基幹産業の復興のために打ち出された国の支援事業の効果に関心する学生も多かった。 第2回現地学習(11月)の目的の一つは,震災時に住民が活用したSNS(Social Network System)の有効性について知ることであった。そのため,事前講義では,Twitter等の短文投稿サービス(ミニブロク),ブログ,ホームページといった情報伝達手段の特性やその差異を紹介し,震災時,実際にそれらを併用して復旧作業に貢献した住民の話を聞く準備を行った。このような活動は,阪神大震災時にはなかったものであり,今回の取り組みにおいても,とくに取り上げたいテーマであったため,多くの時間をかけた。日常的にSNSを利用している学生達の反応も良く,現地学習では活発な質疑応答が行われた。同現地学習のもうひとつの目的は,仮設住宅に住む被災者の声を聞くことにあった。前回の現地学習において,前向きに活動する海苔養殖業者の話や効果的な産業復興策の内容を聞いてきた学生の中には,前に踏み出せない住民の声や遅々として進まない移転計画の内容を聞き,行政と住民,あるいは住民間のズレに気付く学生も出てきたことが印象的であった。 第3回現地学習(12月)は,JR仙石線の移設問題に揺れる野蒜地区で行った。事前講義では,同地区の状況を説明した後,学生を住民側と行政側に分け,ロール・プレイによる模擬討論を行った。主張の勝敗を決めるディベートではなく,互いの意見を聞きながら一つの意見に収束させていく流れで討論を進めていくと。個人的な希望が満載された住民側の主張が,最終的な目標に向かって論理的に説得しようとする行政側の主張に圧されてしまう結果になった。住民を演じた学生は主張しているにも関わらず,それを貫き通せない難しさを実感したようである。その上で,現地学習で実際に市から復興計画の内容を説明され,現地住民の声を聞くと,まさに同様な現象が生じていることが分かり,住民活動への参加や意見集約の重要性を指摘する学生が多くみられた。

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