日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P019
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発表要旨
地域住民の生業戦略とコモンズ
-モンゴル国トゥブ県アルタンブラグ郡の事例から-
*小野 智郁
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抄録
1. はじめに 2000年に入ってから、トップダウン的な資源管理のあり方が問題視されるにつれ、「コミュニティー基盤」「地域主導」による資源管理が注目されるようになった。しかしながら、政策による参加型資源管理の導入や地方分権化が常に成功しているわけではなく、地域の特殊性の理解や、人間関係、権力構造などの様々な諸条件によって、その成否は影響を受けている。これらを補填するには、歴史的に資源保全・地域自治の運営主体として地域社会に適した形で機能してきた制度であり、時代と共にその形態や内部の仕組みを変容させつつ存続する「コモンズ」を基盤とした順応的ガバナンスの構築が求められている。本報告では、モンゴルを事例として、動的な社会・生態システムと共に変容をしてきた「コモンズ」の存在を地域住民の具体的な土地利用や生業戦略から明らかにする。調査対象地域は、牧畜業(移動牧畜)が中心のモンゴル国ウランバートル近郊にあるアルタンブラグ郡である。夏季放牧地はオープンアクセスであり、誰でも利用可能である。2011、2012年の夏季に聞き取り調査、家畜の行動追跡、参与観察を実施した。2. 土地利用と生業戦略 現地踏査の結果、地理的かつ家畜管理の観点から牧畜民を4タイプに分類することが出来た。①豊富な水源を求める河川沿い牧畜民②広い放牧地を求める山側牧畜民③商業を求める村落近郊牧畜民④国際機関の定住化プロジェクトに参加し、定められた放牧地を4世帯で15年間共同利用する牧畜民である。それぞれが4つの場所に住み分け、さらに周辺の世帯と放牧方向や井戸利用方法など独自のルールを用いて土地利用を行っていることが明らかになった。 さらに、この地域では3タイプの共同体が存在する。(A)モンゴル遊牧社会に特有の伝統的な共同体組織ホトアイルでは、牧民同士で一夏を共にするメンバーを決定し、日々の労働のみを分担する相互補助システムが機能している。(B)牧民が自発的に設立し、資金を組合員から調達し運営する共同組合。牧畜業や副職業を共同化し、これらに要する輸送費などの経済的負担の軽減などを目的とする。郡の自治体は組合設立を支援し、ボトムアップ的解決方法を取りながら、草原維持管理や生活水準の向上に積極的に取り組んでいる。(C)前述した国際機関の定住化プロジェクトに参加している共同体。低所得者がプロジェクトの対象となっており、井戸や冬営地の設立費用をドナーから借りることができるインセンティブがある。私有地には柵などはないため、周辺住民の利用を監視しながら長期間利用し続ける必要がある。最後に、(D)どの共同体にも属さない単世帯がある。監視されることを嫌い共同体に属すことが苦手な世帯もあれば、金銭的に余裕があり共同作業を行う必要性がない世帯もある。3. ローカル・コモンズ共有地には利用制限や境界が設けられることはないが、各々が利用する場所が慣習的に決まっている。また、 (B)(C)では、持続性を意図したコモンズとして組織化されている。(A)(D)では、持続性を支える条件が崩れた場合、収奪的な資源利用へと変容する面を持ち合わせているが、「人の目」や「みんなのもの」意識から暗黙的に無秩序な利用を制限する仕組みがあり、オープンアクセスな場所でもコモンズをなりたたせる力が働いている。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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