抄録
1.はじめに現在,具体的にどの個体を間伐すれば最も間伐効果が高く,林分の成長にプラスの作用をするか否かに関する研究は少ないのが実情である.本研究では,独自に考案した隣接個体指数・成長指数が間伐個体を決定するための有用なデータと成りうる可能性について提案・考察する.神奈川県嵐山のヒノキ林に対する毎木調査・年輪調査を行い,データとして用いた.2.研究方法1)調査地から5枚の円盤を採取し,年輪成長幅を計測.2)樹高3m以上の植栽木を対象に毎木調査 (胸高直径,樹高)を実施.3)円盤採取個体周辺の樹冠投影図・樹冠断面図を作成.4)調査で得た情報をExcel2007に入力し統計処理をし,分析.5)年輪に関する経年変化の分析.分析方法は以下に示す.・年輪成長幅(4方向の平均値)の経年変化分析・年輪成長断面積の経年変化分析・2001年(間伐実施年)を基準として,2001年の年輪幅と各年の年輪幅の偏差の経年変化分析・後述する隣接個体指数と年輪成長幅を元にした個体の成長に関する指数(合計6種類,成長指数と定義)の相関分析.3.結果と考察3.1 結果1991年~2011年の20年間においては, 1999年~2002年の間で複数個体の年輪成長幅の増加が見られた.特にB4個体増加は著しい. 円板採取個体のa~a+1m(0≦a≦5)における隣接個体数をx,重みづけ値をy=6-aとし,x*yの合計値を隣接個体指数と定義した.各成長指数は以下で定義した.a) 年輪成長幅(1991~2010年の20年積算)b) 年輪成長幅(2001~2010年10年積算)c) (年輪成長幅(1991~2010年の20年積算))2d) (年輪成長幅(2001~2010年の10年積算))2e) 年輪成長断面積(1991~2010年の20年積算)f) 年輪成長断面積(2001~2010年の10年積算) 3.2 考察1) 経年変化分析では,年輪成長幅は1950年に最大を示したが,年輪成長断面積(Fig.1参照)は1939~2001年までほぼ横ばいであった.よって1950年に示された年輪成長幅のピークは個体成長量の最大値を示していないと言える.2001年との偏差の経年変化から間伐実施以降の成長量増加が確認された.2) 隣接個体指数は6種類の成長指数と相関係数-0.993 ~ -0.955の非常に強い負の相関を示した(Table1およびFig.2参照).従って,ある個体の隣接個体は近接で数が多いほど個体成長を阻害すると考えられる.4.結論 個体周囲で行う間伐は個体の成長を促し,間伐個体が近接であるほど,その効果は大きい.限られた情報(年輪成長幅・樹高・胸高直径)でも林分の状況を分析し,その後の施業方法を決める手段の一つとして用いることが可能である.その際は隣接個体指数,成長指数が重要な指数として位置づけられる.実用化に向けてさらにヒノキ以外の林分に関する同様の調査研究等の追加研究と間伐個体予測システムの開発等が今後の研究課題となりうる.5. 参考文献1) 正木ら(2011),日本森林学会誌,93(2),48-572) 鈴木ら(2009),日林誌,91,9-14