日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0609
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発表要旨
地域文化の新たな見せ方と消費
「デザイントラベル」と「土祭」を中心に
*濱田 琢司
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抄録
はじめに 地域の文化をどのように切り取り,提示するかということ(あるいは,地域の文化がどのように切り取られ,提示されるかということ)については,文化地理学はもちろん,観光研究や文化人類学などでも,これまで頻繁に論じられてきた。そこでは,ある地域の地域イメージが,観光現象や新たな地域文化の創造などを通して,形成され固定化されていく過程,あるいは,そのようにして固定化されたイメージを活用しての自己表象の在り方などが検討されてきた。本報告も,基本的にはそのような関心の延長にあるといって良い。 ところで,そのような地域文化の一つとしての手工芸といった地方の物産について,新しい消費の場が形成されるようになって,すでに久しい。そうした場の一つは,服飾系のセレクトショップであり,ビームスやアーバンリサーチ・ドアーズなどが典型的な事例となるが,近年は,また少し新たな展開が見られるようになってきた。それは一つにはより網羅的な地方物産の価値付けの動きであり,もう一つは,新しいスタイルの地域イベントの開催である。それらにおいては,上述のセレクトショップによるもの以上に,地方性や地域性が強調される傾向がある。本報告では,そうした動きを,地域文化の新たな見せ方と消費の在り方の現在的状況の一つとして位置付け,考察する。D & Departmentと「デザイントラベル」 D & Departmentは,2000年に設立されたデザインショップとその関連のプロジェクトの総称であり,当初は,いわゆるプロダクトデザインを中心に様々な取り組みを行っていた。しかし,2008年,D & Departmentの代表でもあるナガオカケンメイが企画・構成を務めた企画展「デザイン物産展ニッポン」(於:松屋銀座,『デザイン物産展ニッポン』美術出版社,2008)あたりから,急速に各地の伝統的な品々に関心をシフトさせ,以降,都道府県を主な単位として,各地の様々な物産をピックアップするという取り組みを活発化させている。そのなかでも,「その土地の個性を生かしたデザインを巡る旅を「デザイン観光」と名付け,その土地を上手く表現出来ているデザインのある伝統工芸からカフェ、ホテル[中略]ショッピングの場所までを、[中略]その土地を代表するロングライフデザインとして紹介する」(『d design travel HOKKAIDO』D & DEPARTMENT PROJCT、2009),『d design travel』という観光ガイドの刊行などは,地域文化の表象と消費を考える上で興味深いものである。 「土祭(ヒジサイ)」と益子 「土祭」は,栃木県益子町において,2009年9月に第1回が,2012年9月に第2回が開催された地域イベントである。陶芸の里である益子では,例年,春と秋に商工会や販売店組合が中心となった「益子陶器市」が開催されるが,それよりも,アートやファッションの比重が高い。アート・トリエンナーレなどの美術イベントと旧来の商業的な陶器市との中間に位置付けられるようなイベントである。スターネットというカフェの主宰者である馬場浩史の発案によって企画されたもので,馬場が「この土地の歴史や自然に感謝し[後略]」と述べるように,その一つの特徴は,「土」に象徴される益子の地場性・地域性の強調である。そして,そうした地場性・地域性を,「ファッショナブル」に提示することにも注力しており,現在的な地域文化の「見せ方」の一側面を伝える好例でもある。 ビームスなどによって提示された伝統とファッションを融合させた形での地域文化の消費は,すでに一定の市場を形成しており,より広く当該の地域を巻き込んで進展している。報告では,D & Departmentの「デザイントラベル」と「土祭」の事例から,このような地域表象の現在的状況を紹介・検討する。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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