日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 518
会議情報

発表要旨
梅干しの価格形成システムをめぐる産地間の差異と相互関係
*則藤 孝志
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.学術的背景と課題設定
地理学におけるフードシステム研究では,農産物・食料品流通の地理的パターンの解明,そのパターン形成に影響を与える個別経済主体の行動や立地展開,それらをめぐる理論概念の検討が主要な論点としてあげられる(荒木,2010).一方,関連分野である農業経済学では,生産から加工・流通を経て消費に至る一連のプロセスにおける取引で結ばれた主体間関係の解明が,フードシステム研究の一義的な課題としてあげられる(清原,1997).このような地理学と農業経済学の視点や論点を互いに共有し,融合させるようなアプローチを図ることがフードシステム研究の進展につながるのではないかと考えられる.
以上の問題意識のもと,これまで報告者は,農業経済学のアプローチである構造論的分析枠組みを用いて,梅干しのフードシステムを捉え,その全体像を「産地間の差異と相互関係」に焦点を当てながら分析してきた(則藤,2011).生産・加工段階の地域的まとまりである産地に目を向ければ,同じ品目であっても,歴史や規模,農産物および加工品の品質,供給経路,価格形成の仕組みなどにおいて産地間の差異がみられ,そのもとで競争や連携など産地間の相互関係が成り立っているのである.
これを踏まえ,本報告では,ウメの生産から梅干しの小売に至る一連の取引における「価格形成システム」を掘り下げる.価格形成システムとは,売り手と買い手がある特定の価格に到達するプロセスを,その方法(競売,相対交渉,フォーミュラ等)に着目して一つの仕組みとして捉えようとするものである(新山,2001).この価格形成システムには産地間の差異がみられ,また相互に関連し合うことで,全体として一つの複合的なシステムが成り立っていることを,梅干しを事例に示したい.
2.分析方法
大規模産地である和歌山県みなべ・田辺地域と中小規模産地である福井県若狭町を取り上げ,両産地を起点にみた①~⑤の取引段階において,どのような方法で価格が発見されるのかをまず明らかにする.次に,それぞれの方法が互いにどのような要素で結びついているのかを明らかにする.具体的には,相対交渉であれば,交渉で参照要素となるのはどの段階の価格か,フォーミュラ(公式)であれば,算式に組み込まれる基準価格はどの段階の価格かを特定する.さらに,梅干しの価格形成システム全体の基礎にある価格(基本価格)の特定を通じて,複合的なシステムが機能するメカニズムを解明する.
なお,本報告で用いる主なデータは,両産地における農家,農協,加工業者への聞き取り調査による.調査は,2008年10~11月,2012年6月,2013年2月(実施予定)に行った.
3.分析の結果と考察
農家と農協・加工業者との白干し取引では,①は相場,②は青ウメの卸売市場価格と連動したフォーミュラである.この差異は,両産地における加工段階の競争構造に規定されている.次に③の若狭町の農協からみなべ・田辺地域の加工業者に販売される白干し取引では,「①の七掛け」という暗黙のフォーミュラが存在し,大規模産地と中小規模産地との階層的関係が伺える.一方,農協・加工業者とスーパーとの梅干し取引④⑤は,ともに相対交渉だが,そこでは圧倒的にスーパーの価格交渉力が強い.④の価格が①と⑤に大きな影響を与えることから,④がシステム全体の基本価格になっていると捉えることができる.
【参考文献】
荒木一視 2010. 市場と流通(フードシステム). 経済地理学会編『経済地理学の成果と課題』50-59. 日本経済評論社.
清原昭子 1997. フードシステムに関する主体間関係の分析方法. フードシステム研究 4: 2- 17.
新山陽子 2001. 『牛肉のフードシステム―欧米と日本の比較分析―』日本経済評論社.
則藤孝志 2011. 梅干しのフードシステムの空間構造分析. フードシステム研究 18: 18-28.

著者関連情報
© 2013 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top