日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 525
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発表要旨
北海道における登山道侵食のパターン
―12の山での「登山道侵食」地形学図の作成でわかったこと―
*小林 勇介平川 一臣小松 哲也小畑 貴博渡辺 悌二
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抄録

1.はじめに
登山道侵食という地形現象を理解するにあたり,「侵食発生箇所における地形計測的要素の分析」や「侵食断面形態の変化の把握」といったアプローチが,これまでのところ主流なものとしてとられてきた.その一方で,地形学では当然と考えられるアプローチ:①多地域・多地点での地形現象の比較,②地形現象をあらわす地形学図の作成,はおこなわれてこなかった.本研究では,これまでに着目されてこなかったこれらの点にもとづいて,登山道侵食のパターンや特徴について明らかにする.

2.研究方法
北海道内の48 の山の登山道において登山道侵食の有無を確認した.登山道侵食が確認できる山であった場合,その山の登山道侵食パターンをもっとも良く代表するような場所を1地点選び,そこで地形学図を作成した.地形学図は,登山道侵食の始点から終点までを含む数~十数mの区間でのスケッチをベースとし,それに折れ尺,クリノメーター,レーザー測距器を使用して計測した斜面長,侵食深,侵食幅,侵食断面形態といった情報をもりこんだものである.

3.登山道侵食のパターン
登山道侵食は30の山でみられた.地形学図は,そのうちの12の山で作成した.侵食のパターンは,発生箇所の表層地質に着目すると以下の2つのタイプに区分された.

(1)粘土質タイプ(狩場山,長万部岳,目国内山,積丹岳,余市岳,礼文岳,斜里岳):主に中期更新世に活動を終えた古い火山にみられるタイプ.特徴的なのは,登山道侵食の深さ・幅と表面礫・表層地質との間に河川水理の経験則と似た次のような関係がみられる点である.すなわち,登山道侵食は,地表面上に散在する大礫・巨礫がまばらになり,礫の粒径が小さくなる地点からはじまる.侵食がみられる場所の表層地質は粘土質であり,その断面形はV字型である.侵食の断面形が函型を示すようになると,地表面上に大礫が散在するようになり,侵食は漸次解消にむかう.

(2)砂礫質タイプ(オロフレ山,利尻山,富良野岳,黒岳,羅臼岳):過去数万年間以内に生じた火山噴火によると思われる火砕流,もしくは降下軽石・スコリアが堆積した山でみられるタイプ.粘土質タイプとは異なり,登山道侵食の深さ・幅と表面礫・表層地質との間に関係はみられず,不規則な侵食パターンをとる.

4.おわりに
北海道では,平成17 年に環境省によって大雪山国立公園内の登山道管理に近自然工法が導入された.近自然工法とは,登山道を小さな川にみたて,その表流水を礫や木材によって制御することで,登山道侵食を軽減させる工法である.これに対して,本研究の結果は,登山道を川として捉えることが可能な場合(粘土質)とそうではない場合(砂礫質)があることを示す.これは,少なくとも表層地質を考慮に入れない一様な近自然工法では,登山道侵食の軽減が難しいことを示唆するだろう.

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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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