日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P055
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発表要旨
長崎県の島嶼における水環境についての比較研究(2)
*矢巻 剛小寺 浩二阿部 日向子池上 文香
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抄録
はじめに
   日本には数多くの島嶼が存在し、その独立した環境のためそれぞれ独特の環境を呈する。過去の研究結果から、四方を海に囲まれた離島の陸水は一般的に海塩の影響を受けやすいと考えられている他(後藤ほか1989)、その多くが比較的小規模で限られた空間であるため、農業などの人間活動のみならず雨水などの降下物の影響が大きく反映される傾向にあると考えられている。しかし、対馬・壱岐・五島列島に関するものは比較的少ない。また、日本海沿岸でも越境汚染の影響が見られる(尾関ほか2004)ので、大陸と日本列島の間に位置するこれらの島々も大陸由来の降下物の影響を反映している可能性が高い。本研究では、それぞれの島の陸水や雨水の水質の特性を比較しながら水環境の現状を明らかにすることを目的とする。

対象地域
1 壱岐島・対馬
   壱岐島は九州北部の玄界灘に位置する面積 136.69km²の島である。なだらかな地形が特徴で島の各地に数多くの溜池が存在している。一方対馬は九州北部の玄界灘に位置する面積約708 km²の島で壱岐島と比較して島全体の標高が高く、島土の約89%を山地が占める。地質は大部分が堆積岩で、表土も薄く岩石が露出する景観が見られる。

五島列島
 
  
五島列島は長崎港から西に100kmに位置する総面積約690 km²の島である。北東側から南西側に80kmに渡り、約140の島々が連なる。自然海浜や海蝕崖、火山景観など複雑で変化に富んだ地形で、各島ごとに大きく地質条件が異なる。

研究方法
  
2014~2016年の春季と秋季に水文観測を行った。現地で気温、水温、EC、pH、RpHを測定し、サンプルを持ち帰りTOCの測定、イオンクロマトグラフィーによる主要溶存成分の分析を行った。雨水については毎月採取したサンプルを同様に分析した。

結果・考察
   
調査・分析の結果、ほぼ全ての島の陸水には海塩の影響が見られ、壱岐島における陸水の全体的な特徴として海塩よりも地質による寄与が大きい点、対馬については上島と下島で水質組成が異なり下島は風送塩の影響が顕著であるという点、五島列島は地域によって地質の寄与が見られ、壱岐島や対馬と比較して硝酸が多く検出された点が明らかとなった。これらは地質や地形、農業形態の相違によるものと考えられる。

おわりに
   
今後は小流域での解析を進めてゆくほか、より各島における陸水の特徴を明確にしてゆく必要がある。

参 考 文 献
   尾関徹,井原聡博, 岡田年史,菊池良栄, 小川信明(2004):降水中の汚染物質の越境汚染に関する日本海側広域調査(2000~2001)と主成分分析によるイオン種の分類
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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