日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P085
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発表要旨
大学における地域人材育成の取り組みと今後の課題
*横山 俊一
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抄録
1. はじめに
発表者は地理学を一般に普及させるための活動にこの数年間取り組んでいるが、当初ターゲットとした層はテレビの旅番組やB級グルメに興味はあるが「自ら学ぶことがあまり好きではない人たち」であった。これまで地理学の一般普及においてターゲットとされていた層は「自ら学びを求める人たち」であり、その多くは専門性に特化した内容を求める人たちで、研究者も非常にアウトリーチしやすい層であった。しかしその母数を考えると対象数は少ないのが実情である。そのようななか筆者は「自ら学ぶことがあまり好きではない人たち」を対象とすることは母数の多さも相まって地理学を普及させるのに非常に有効であると考えた。しかし、その方法について様々な試行錯誤を行っているが途方に暮れる状況である。同じように多くの先学研究者も厳しさを感じて途方に暮れたのではないだろうか。そのようななか2016年5月より信州大学地域総合戦略推進本部において信州の未来を担う人材育成講座である『地域戦略プロフェッショナル・ゼミ』のコーディネートを行うこととなった。これは先述した「自ら学ぶことがあまり好きではない人たち」を対象としたものではなく、自ら学び地域を変えていきたいというやる気のある人たちをターゲットとしたものである。参加者の多くは「自ら学びを求める人」だけでなく、広く繋がりを構築し地域活動を積極的に進めていこうというバイタリティを持つ人たちである。そのような人たちとの交流はこれまでとは異なった視点を得ることができ、「自ら学ぶことがあまり好きではない人たち」へのアウトリーチの方法のヒントにもなっている。そこで本発表では信州大学で実施している『地域戦略プロフェッショナル・ゼミ』の取り組みについて紹介する。

2. 地域戦略プロフェッショナル・ゼミについて
『地域戦略プロフェッショナル・ゼミ(以下プロゼミとする)』は、2014年度から開始したもので、信州の地域再生や活性化に関心を持つ市民を対象として、地域を未来へと繋ぐための「課題解決知」を学ぶ場である。初年度より3コースのカリキュラムがあり(表1)、北信地域は「中山間地域」、中・東信地域は「芸術 文化」、南信地域は「環境共生」をキーワードとした講座が開催されている。これらは地域総合戦略推進本部が実施した県民アンケート・行政インタビュー・地域対話ワークショップなどをもとに、現在の地域課題や未来の地域づくりに対するニーズを分析して創りあげた学習プログラムである。大学の「研究知」と地域の「実践知」の融合による新たな課題解決アプローチを目指している。第一線で活躍する研究者や地域の実践家を講師として、知識獲得だけでなく現場での実践演習を交えたプログラムを実施している。各コースとも講座回数は15回となっており、開講式と修了式、全コース共通講座が別建てで設定されている。2016年度は10月1日に3コース合同の開講式が開催され、その後の講座の日程は各コースによって異なる。今年度は過去の受講生からの要望が多かった合宿も取り入れている実施している。発表者は南信地域の「環境共生」をテーマとしたプログラムのコーディネートを2016年度から担当している。講座は南箕輪村にある農学部伊那キャンパスを拠点に行っていることもあり、これまでは植生や昆虫、鳥獣害などを中心とした講座が開催されてきた。しかし環境という冠がついていることもあり、これまでの動植物に特化した講座だけでなく、地理学的視点を取り入れた人や産業との関わりを前面に打出した講座も必要であることを強く意識していた(図1)。そこで複数の地理学研究者に講師を依頼し実施した。複数年受講している受講生からはこれまでの内容とは異なり、地域の課題を考える際に広い視点で見ることができたと好評であった。

3.今後の課題
コース修了後も「信州大学地域総合戦略推進本部」とプロゼミ修了生が連携しながら、 継続的に地域活動を展開している。加えて、修了生には、本学学生や地域人材を教育する地域講師として活動してもらうことを目指している。 修了生は長野県下を中心に200名弱となっているが、今後は修了生に対するケアと財政面が大きな課題となる。

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