日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 105
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発表要旨
宮城県塩竈市における水産業の「復旧」と「復興」
*関根 良平庄子 元小田 隆史松井 知也
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抄録

2011年3月11日に発生した東日本大震災は沿岸都市の水産業に甚大な被害をもたらした.水産業の復旧・復興に関する研究は多くなされてきたが,発表者らは一都市内で産業集積を形成し,全国的な漁船受け入れのために整備された特定第三種漁港が所在し,被災した漁港の中でも水揚げ量が多い宮城県石巻市,および宮城県気仙沼市を対象として,漁業から水産物加工業およびその関連産業の域内での連関構造について検討してきた.本発表は上記2地域で得られた知見をさらに深化させるために,前述した2つの漁港とともに宮城県内で特定第三種漁港をもつ塩竈市を対象として検討するものである.その塩竃港は,東日本大震災による津波被害が上記2港よりも相対的には軽微であったとされている.しかし,それは地域の水産関連業者に何ら影響を及ぼさなかったことを意味するものではなく,かつ震災以前からの労働力の高齢化や産地間・企業間競争の激化といった問題は,被災地のみならず三陸の水産業が抱える共通の問題である.また,超広域的に被害がもたらされた東日本大震災を理解するうえで,その域内で被害が相対的には少なかったとされる塩竃港が震災以降どのような特徴を持つプロセスをたどってきたのか,あるいは近隣地域が甚大な被害を受ける中でどのような機能を担ってきたのかを同時に解明し,総合的かつ一体的に把握しておくことが必要であると考える.
前述したように,塩竈市においては津波被害が相対的には少なかった.2012年に塩竈市が実施した水産業を含む商工業者の罹災状況調査によれば,1,016業者のうちそれでも被害のなかった業者は23.8%にすぎず,89業者は調査時点で事業を再開することなく廃業や解散に至っている.甚大な津波被害がなかったことの裏返しとして,塩竈市の場合は地震と地盤沈下による被害がより主要なものとして位置づけられる.  2011年度において,塩釜市の水産加工品総数の生産量,生産金額の前年比を求めると,それぞれ91.8%,75.9%となる.また,塩釜の水産加工品総数の内訳にあたる主要2大品目,すなわち練り製品と冷凍加工品についてそれぞれ生産量,生産金額の2011年度における前年比をみると,生産量については練り製品が75.9%であるのに対して,冷凍加工品は104.3%となった.生産額についても練り製品については70%であるのに対し,冷凍加工品は103.3%となった.つまり主要2品目について見ると,練り製品は生産量・生産額ともに大きく落ち込んだのに対して,冷凍加工品は2011年度に生産量・生産額とも増加しており,他の漁港・地域にはみられない特徴的な動向である.2014年度までの推移でみても,冷凍加工品は被災地においては堅調といってよい伸びを示している.
また,漁港が2011年4月の時点で復旧したことで,塩竃港は水揚数量においても他の被災地ではみられない特徴的な推移を示した.塩竃港は,震災以前より主に首都圏市場で「ひがしもの」として流通する生鮮マグロの拠点漁港であるが,漁港および市場機能の早期復旧により被災した近隣の他の漁港に水揚げしていた漁船が震災以降も引き続き塩竃港に入港したこと,かつ移送による入荷も減少することがなかったことが要因として指摘できる.生鮮マグロはトラックによる輸送が確保できることが何より重要であり,水産加工業ほど設備復旧の影響が大きくなかったことが要因の一つである.かつ,震災以前まで塩竈市街地に立地しており,「地産地消」機能の一翼を担っていた寿司屋など飲食店が震災被害を契機に閉店してしまったため,業態を仲卸から一般小売に変容させた事例もみられる. このように塩竈市・塩竃港における震災以降の水産業の動向をみると,津波被害が軽微であった,そのため早期に復旧したという単純な理解ではおおよそ不十分であり,他地域や他部門・産業との連関とのなかで理解する必要があることが明白である.発表では,水産加工業でみられたプロセスを同時に解明し,より多面的に塩竈市における水産業の「復旧」「復興」について考察する。

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