抄録
■研究の目的・方法
インターネットを活用しながら,ボランティアとそれを必要とするホストを結びつけるプラットフォームは,現在,国内外で見いだすことができる.本研究は農山村地域において流動者(短期移住者・滞在者)が果たしうる貢献とその可能性等について,とくにボランティア活動の国際的なマッチングシステムがもたらすグローバルな流動者の活動実態に着目し,彼らの農山村の持続性等への寄与の可能性を探る.検討のための基礎データ・資料はマッチングシステムを提供する団体のウェブサイトから得られる情報を入手・加工して使用した.流動者の実態については,北海道十勝地方で活動するホストやボランティア経験者へのヒアリング調査(2015年-2017年実施)により入手し,一部ルーマニアの農村で把握・調査したホストについても検討の材料にした.
■ボランティア活動の国際的なマッチングシステム
日本国内での登録実績がある国際的なボランティアマッチングシステムとして,例えばWWOOF(ウーフ),helpx(ヘルペックス),workaway(ワーカウェイ)等があげられる.Burns et al. (2015)によれば日本のWWOOFのホスト数は年々増加してきたという.
■農山村地域のホストにおけるボランティア活用事例
北海道十勝地方で自然食品を活用したオーガニックカフェを運営し,そこで使用する食材の一部を自然栽培で生産するH氏は,地元にUターンした後,2015年にWWOOFのホストへ登録した.約2年半で16か国50人以上のボランティアを受け入れた実績があり,その多くは外国人である.H氏運営のシェアハウスを滞在拠点とし,主な活動はカフェの調理・ホール業務や農作業の手伝いであり,地域内の別のホストと連携した活動も行う.自由時間にはH氏が地元の観光スポットを案内する等もしている.
■農山村地域における流動者の貢献と可能性
ホストの国・活動地域によってボランティア活動の内容は多種多様であるが,各マッチングシステムの長所を生かしながらホストやボランティアが相互に協力している.日本の農山村は少子高齢化が著しい地域が多く,ホスト側が比較的若い働き手を低予算で確保できることは重要である.しかし,マッチングシステムの提供組織が目指しているように異文化交流が生まれ,地元住民との地域活動・イベントの開催が実現するなど,ボランティアである流動者の受入を契機とした諸活動の相乗効果が地域に生まれていることが伺われた.また,移住前の試行としてボランティア登録する流動者の実態も確認された.北海道のようにインバウンド観光の需要が高い地域ではホストが多く,積極的に活動中であるが,有名観光地以外でも農村風景や伝統的な生活様式など,地域資源の再発見をツーリズム活動の機会に生かした結果,ボランティアが国内外に発信するなどの実態が確認された.一方,もともと地縁のない移住者がホストとなる場合,地域社会への貢献が限定的になる事例も確認される等,マッチングシステムの活用を農山村の持続性に繋げる上での諸課題も見いだされた.