日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P338
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発表要旨
ローカル・ガバナンスの観点による地域包括ケアシステムの地域差の検討
*畠山 輝雄宮澤 仁中村 努
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抄録

1.はじめに

 わが国では,急速に進展する高齢化に対応すべく,重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が急がされている.厚生労働省によると,同システムは保険者である市区町村や都道府県が,地域の自主性や主体性に基づき,地域の特性に応じて作り上げていくことが必要とされているため,各自治体では行政が中心となって同システムの構築を図っている.

 他方,地域包括ケアシステムには,中核機関の地域包括支援センターの設置や地域ケア会議による住民の情報集約・ケア支援など以外には,システム構築に関して具体的な枠組みやモデルが存在しないことから,地域の特性に応じて構築されるシステムに地域差が生じている(畠山・宮澤 2016).

 これらの地域差の実態とシステムの類型化,さらに類型ごとのメリット・デメリットを明らかにすることが本研究の目的である.これにより,今後の地域特性を考慮した地域包括ケアシステムのあり方を提示することが可能である.

2.研究方法

 畠山・宮澤(2016)では,前述した地域包括支援センターの配置や地域ケア会議の設置状況に大きな地域差があることを明らかにした.特に,地域包括支援センターにおいては,設置数や行政との委託関係などが多様であり,これらの配置状況が同システムの構築や地域とのネットワーク形成に大きく影響する(畠山 2017).そこで,本研究では地域包括ケアシステムを,ローカル・ガバナンスの観点から考察し,地域差の実態を明らかにする.

 上記を踏まえ,地域包括支援センターの配置状況((1)1か所,(2)地域包括支援センター+サブセンター・在宅介護支援センター,(3)2か所以上)と地域ケア会議の設置単位(A:市区町村,B:市区町村より狭域,C:市区町村+市区町村より狭域)のそれぞれ3類型,合計9類型を設定し,市区町村を分類した.使用したデータは,2015年11月に全国の市区町村に郵送(一部電子メール)配布・回収により実施したアンケート調査の結果である.アンケートの有効回答数は616であり,回収率は35.5%であった.

 また,各類型の特徴について,各市区町村の人口,合併状況,財政力等の各種指標から分析した上で,その平均的な市区町村を事例地域に選定し,ローカル・ガバナンスの観点から地域包括ケアの構築状況を詳細に把握した.事例調査は,行政,地域包括支援センター,その他関係機関へのヒアリングにより実施した.

3.分析結果

 地域包括支援センターと地域ケア会議の配置・設置状況の地域差には,各市区町村の(65歳以上の)人口規模が大きく影響していた.地域包括支援センターに関しては,配置状況が(1)から(3)になるにつれて市区町村の人口規模は大きくなり,地域ケア会議の設置単位に関しては,Aの市区町村の人口規模は圧倒的に小さい.また,(1)-Aは,小規模な非合併市町村に多いことも特徴であった.

 各類型における具体的な地域包括ケアシステムの構築状況の特徴やメリット・デメリットについては,当日報告する.



 本研究の遂行にあたっては,科学研究費補助金(基盤研究(A)『「社会保障の地理学」による地域ケアシステムの構築のための研究』研究課題番号:15H01783,研究代表者:宮澤 仁)を使用した.



文献

畠山輝雄 2017.地方都市における地域特性を考慮した地域包括ケアシステムの構築と行政の役割.佐藤正志・前田洋介編『ローカル・ガバナンスと地域』153-174.ナカニシヤ出版.

畠山輝雄・宮澤 仁 2016.地域包括ケアシステム構築の現状―地理学における自治体アンケート調査の結果から.地域ケアリング 18(14): 65-68.

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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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