日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 414
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発表要旨
土地利用に基づく津波浸入リスクの変化
-浜松市沿岸地域を事例に-
*岩井 優祈
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抄録
日本政府は,近い将来に南海トラフを震源とした巨大地震が発生することを発表した.この震災に対する被害想定は,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえたものである.この被害想定の最大の特徴は,最大規模の津波襲来を想定している点であり,平野部をもつ地域では内陸まで広範囲に及ぶ浸水域が推定された.そのため,津波遡上後の浸入に関する研究は今後ますます重要になると考えられる.
そこで本研究は,津波による浸水被害を経過時間ごとに算出するための浸入速度推定モデルと,それを甚大な被害が予想される静岡県浜松市沿岸地域に適用する手法を開発した.
津波の浸入プロセスを解明するにあたり,本研究では津波浸入速度を算出するモデルを構築した.従来のモデルは粗度係数が土地利用ごとに決定されていたのに対し,本モデルではそれに加えて建物の幅や建物にかかる波力抵抗が考慮されている.また,建物密度や建物高による津波の浸入速度の低減効果を組み込むことで,従来のモデルを都市的地域に適するよう改良した.モデルを適用することで浸入速度を分析単位ごとに可視化し,海岸からの距離に着目して分析した.また,人口分布図や土地利用図と重ね合わせることにより,被害の時空間変化を予測した.さらに,波避難施設を重ね合わせることで,要避難者の避難可能性について分析した.
GISを援用してモデルを浜松市沿岸地域へ適用した結果,浸入速度は浸水深に大きく影響を受けることが示唆された.一方で,堤防や住宅団地が分布するような場所では,浸水深の分布とは異なるパターンが見いだされた.本研究では実際の建物の位置や形状をもつ非集計データを使用しているため,従来の集計データに基づいた算出結果よりも高精度に浸入速度が算出されている.
また,モデルの適用により浸入速度を分析単位ごとに可視化し,海岸からの距離に着目して分析した.その結果,住宅地と農用地が混在する地域では浸入速度が不規則に変化するため,危険性が高くなることが示唆された.
さらに,南区の五島地区周辺を事例に,土地利用図と人口分布図を津波先端線に重ね合わせることで,被害の時空間変化を予測した.その結果,津波が予期せぬ方向から回り込んで浸入する可能性や,要避難人口・被害面積を時系列で示すことができた.
最後に,津波避難施設の分布図を重ね合わせることで,五島地区周辺に居住する人口の避難可能性について分析した.その結果,浸入後1分から4分と,浸入後6分から15分の範囲で避難未完了人口が増加していた.前者は避難可能時間が短いこと,後者は津波避難施設が十分に配置されていないことが要因として考えられる.
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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