日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 418
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発表要旨
湿潤熱帯域の浅海底地形学:石垣島名蔵湾の沈水カルスト地形の発達
*菅 浩伸藤田 和彦横山 祐典浦田 健作中島 洋典堀 信行長尾 正之羽佐田 葉子Sinniger Frederic宮入 陽介
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抄録
1.はじめに

 水深130m以浅の浅海域は,氷期・間氷期の海面変化に伴って,侵食・堆積作用を交互に受けながら地形がつくられる地域である。しかし,従来の地形学教科書などで詳しく解説されているのは「海岸地形」までであり,海面下は大地形としての「大陸棚・大陸斜面の地形」が僅かに記述されるだけである。本研究では,マルチビーム測深を用いて作成する精密海底地形図を基に,これまでの知見がきわめて少なかった浅海底に存在するの地形とその形成について議論を行う。将来的には「海岸地形」と「大陸棚・海溝などの大地形」の間に入る新しい章「浅海底地形」を創り出す端緒となればと願う。

2.調査地域と調査方法

 石垣島名蔵湾では,湾中央部の1.85km×2.7kmの範囲でマルチビーム測深を実施し1mグリッドの精密海底地形図を作成した結果,大規模かつ多様な形態をもつ沈水カルスト地形が発見された (Kan et al., 2015, Geomorphology, 229, 112-124.)。測深域は水深約5m~40mの起伏に富む地形によって構成されている。その後の調査により,沈水カルスト地形中央部にて洋上ボーリングを行い,掘削深度60mに達するコアを採取した。コアのうち後氷期堆積物より,12試料のAMS年代測定および12試料の有孔虫組成解析を行った。また,湾内の9測線において反射法地震探査(マルチチャンネル法)による地層探査を行った。振源はウォーターガンを用い,受振装置はハイドロフォンを3.125m間隔で24チャンネル配したストリーマーケーブルを使用した。速度解析によって求めた区間速度を用いて時間断面を深度変換したところ,最上部に現れる明瞭な反射面はボーリングによって得られた完新統/更新統境界と非常に良く一致した。

3.名蔵湾沈水カルストの構造と地形形成上の特徴

 ボーリング地点の完新統/更新統境界は現在の水深約40m付近(掘削震度35m付近)にある。約35mの完新世サンゴ礁堆積物の層厚は琉球列島で最も厚い。完新世サンゴ礁堆積層は,枝サンゴや堆積物を主とし空隙が多い内湾型の礁構造であり,堆積物の保存が極めて良い。コア中の有孔虫組成より約1万年前以降の海面上昇過程が詳細に解明されそうである。

 更新統は琉球層群の石灰岩からなり,層厚は25m以上である。熱帯浅海域で厚い現成サンゴ礁堆積物に覆われることによって,更新統石灰岩が良好に保存されたとみられる。更新統石灰岩は最上位で極浅海域の造礁サンゴよりなる礁主体相を呈する。更新統石灰岩上部付近からは石筍が採取された。石筍は表層付近で褐色土壌を含みながら堆積しており,石筍表面は侵食されている。これらのことから,氷期の低海水準下で石筍が形成された後に,地表の削剥・低下が起こり,石筍が徐々に地表近くに達したと考えられる。石筍の年代値から,この地形変化に要した時間が推定できそうである。

 地震探査断面によって,更新統上面には現在の起伏に対応した凹凸が認められた。ただし,更新統上面の起伏は現在の起伏(最大30m)より小さい。現在の沈水カルスト地形の概形は,主に更新統石灰岩の侵食地形を基にしており,完新世サンゴ礁が凸地形上へ付加成長することによってこれらの起伏が増幅され,現在の海底地形が形成されたと考えられる。

 謝辞:本研究はH28~32年度科研費 基盤研究(S) 16H06309「浅海底地形学を基にした沿岸域の先進的学際研究 -三次元海底地形で開くパラダイム-」(代表者:菅 浩伸)の成果の一部です。
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