抄録
1. はじめに
2014年11月22日長野県北部で発生したM6.7の地震では,糸魚川-静岡構造線系の活断層「神城断層」に沿って,白馬村を中心に建物に大きな被害が出た。その後の調査で,神城断層沿いに,多くの地点で地表変位が観察され(廣内ほか 2015),白馬村大出では森林にも被害が出ていることが確認された(松多ほか 2016; 井口 2017)。本研究では,この地域の倒木の特徴を明らかにし,地形および活断層が倒木に与えた影響を考察する。
2. 調査の概要
調査地は,白馬村の観光名所「大出の吊橋」近くにある神社「北野社」から,西南西へ約150 m行ったスギ林内であり,調査日は2017年12月3,4日であった。松多ほか(2016)は,比高30 cmから150 cmの断層崖に沿って,杉の倒木を認めているが,地震後3年経た今回の調査時点でも,ほぼ手付かずの状態で,断層崖や倒木が残されていた。
倒木の列は,断層崖に沿って,ほぼN40°E方向におよそ100 mに及び,松多ほか(2016)が識別した5つの段丘面を横切って,北は姫川の河岸付近まで達している。また,これらの段丘面は,明瞭な左横ずれの地形を示している。本研究では,その北部(断層崖沿い約40 m区間),中央部(同約13 m区間),南部(同約15 m区間)で,倒木の範囲,比率,および倒れた方向を調査した。北部は,松多ほか(2016)の段丘面Lc1にあり,中部は段丘面Lc2に,南部は段丘面Laにある。本研究では,地表に倒れずに傾いているだけの木(傾斜木)も,倒木として扱った。ただし,他の木が倒れた影響で2次的に倒れたと思われる木は,倒木とは見なさなかった。倒木の計測には,巻尺とクリノコンパスが使われた。
3. 調査結果と考察
いずれの場所でも,倒木は,断層崖の上端または下端からおよそ2 mの範囲に集中しており,神城断層沿いで植林する際は,少なくともこの範囲を避けるほうが良いと言える。
調査3地点において,この2 mの範囲で,杉の木の全数に対する倒木数の比率を調べた。その結果,倒木率は,北部40%(2/5),中部27%(3/11),南部63%(12/19)となり,断層崖の両端部で倒木率が高くなる傾向が認められた。ただし,これら比率の差は,統計学的には有意とは言えなかった(Fisher正確確率検定,p=0.18)。
木が倒れた方向は平均で,北部N73°W,中部N71°W,南部でN46°Wであった。断層崖の走向は,ほぼN40°E方向なので,北部と中部では,断層崖に直交する方向から左寄り(南寄り),南部では,やや右寄り(北寄り)にずれて倒れたと言える。南部では,倒木の南側が,北向きの急斜面になっているため,北寄りにずれたのであろう。また北部と中部の倒木の方向は,左横ずれ断層運動の影響を表している可能性がある。
参考文献
井口 豊 2017.2014年長野県神城断層地震後の地形と植生の変化.日本活断層学会2017年度秋季学術大会講演予稿集:102-103.
廣内 大助・松多 信尚・杉戸 信彦・熊原 康博・石黒 聡士・金田 平太郎・後藤 秀昭・楮原 京子・中田 高・鈴木 康弘・渡辺 満久・澤 祥・宮内 崇裕・2014年神城断層地震変動地形調査グループ 2015.糸魚川-静岡構造線北部に出現した2014年長野県北部の地震(神城断層地震)の地表地震断層.活断層研究 43:149-162.
松多 信尚・杉戸 信彦・廣内 大助・池田 一貴・澤 洋・渡辺 満久・鈴木 康弘 2016.2014年長野県神城断層地震に伴って白馬村蕨平に出現した地表地震断層の変動地形学的調査.日本地理学会発表要旨集,2016年度日本地理学会春季学術大会:100244(セッションID: 806).
