日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S405
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発表要旨
中心市街地活性化に対する地方自治体の政策的対応とその意義
民間投資の促進と政府間関係に着目して
*佐藤 正志
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抄録
1.はじめに

 地方都市において中心市街地再生や活性化が課題となって久しい.2006年の中心市街地活性化法の改正の中で,コンパクト化を念頭に置いた中心市街地活性化基本計画の策定と認定を通じて,地方自治体での主体的な取組を促しているものの,現状多くの地域では依然としてその達成まで到達できていない状況にある.
 中心市街地活性化に関しては多くの研究がなされてきたが,地理学をはじめとして中心市街地活性化に関与する主体に関する検討では,商業やまちづくりにおける地縁団体や所縁団体に関する意義の検討が中心であった.これに対して,地方自治体の役割に関しては,硬直的な対応やハコ物施設への偏重などが阻害要因として指摘されてきた.
 しかし,基礎自治体は,財政投資や国・都道府県との関係を通じた政策情報や補助金の入手,条例等の制定といった機能を固有に保持する主体である.自治体が固有に持つこれらの機能が中心市街地活性化に果たす役割を論じることは,既往研究で等閑視されてきた自治体が貢献しうる意義を展望する上で有効になるであろう.
 以上を踏まえ,本報告では地方都市の先進事例を対象とし,特に民間投資を喚起するスキーム形成や政策情報の獲得における政府間関係の側面に着目しながら,中心市街地活性化に対する地方自治体の政策対応の役割や意義を論じたい.


2.中心市街地活性化基本計画の評価の全国動向

 まず,中心市街地活性化の現状について,内閣府地方創生推進事務局で公開されている,各自治体の中心市街地活性化基本計画の最終フォローアップ報告(2011~2016年度)を用いて把握する.三大都市圏の政令市を除いた延べ115地域337指標について確認すると,「最新指標で目標値を超えた(以下A系)」評価の指標は98(29.1%)だった.反面「最新指標で目標値も基準値も達しなかった(以下C系)」指標は163(48.4%)に上り,全国的に中心市街地活性化基本計画で掲げられた目標達成が困難な状況にある.実際,22地域では目標指標全てがC系評価になる一方,目標指標全てがA系評価になったのは8地域にとどまり,3つ以上の指標を掲げていたのは2地域(日向市,藤枝市)のみであった.
 指標の分野別及び対象地域の人口別評価動向を把握すると,全国的に設定の多い「通行量」「居住人口」「商業・地域経済」では,A系評価を得た地域の割合はそれぞれ29.4%(35地域),18.9%(14地域),22.7%(15地域)と特に低くなる傾向が見られた.一方,人口規模別にみると,A系評価の指標は10万人未満と50万人以上ではそれぞれ30%を超えるのに対し,人口20~30万人規模の自治体を底にして中間の人口規模の自治体ではA系評価の割合が低くなる傾向が見られた.


3.先進事例における成果と自治体の政策的役割

 全国的な動向を踏まえ,目標指標の達成が実現している藤枝市での中心市街地活性化に向けた取り組みと自治体の政策的対応を考察する.藤枝市では,第1期計画期間に民間リース会社の投資を通じた市有地での図書館・商業複合施設を整備したのを皮切りに,市有地の売却や貸与を通じた商業・回遊施設の整備,駅前地区の市街地再開発を進めてきた.結果,藤枝市の市街地活性化基本計画の第1期計画では「歩行者通行量」「宿泊者数」「公共施設利用者数」の指標全てで目標値を達成した.第2期計画でも,2016年度中間評価では設定している「居住人口」「歩行者通行量」「従業者数」の指標全てがほぼ達成が見込める状況にある.
 この背景には,政令市のベッドタウンとしての位置付けのみならず,①市有地を活用した,財政負担が少なく民間の創意工夫を活かせる手法の確立,②市の担当部局内での利用可能な制度や補助金の探索活動,③国や県からの新規政策や補助金情報の獲得という自治体の政策的対応が,中心市街地整備の促進と,計画目標の達成に結びついている.
 なお,報告時には類似した規模の自治体で,フォローアップ評価が高くない自治体との比較も合わせて検討したい.

本研究はJSPS科研費基盤研究B(課題番号16H03526 代表者:箸本健二)の助成を受けたものである.
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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