日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 433
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発表要旨
火山灰編年学にもとづく東北日本弧内陸盆地の地形発達史構築
*鈴木 毅彦
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抄録

1. はじめに
日本列島の地形発達研究においては地球物理学的知見の集積やテクトニクスの議論,火山活動史の構築が進み,問題点も明らかにされつつある.しかしながら内陸盆地や海岸域,とくに相対的沈降地域では,その形成に10-100万年単位の時間を要するにもかかわらず,それらを構成する地下堆積物についての年代データが限定される場合がある.西南~中部日本にかけての内陸盆地や海岸域では,第四紀テフラが地下堆積物から検出され比較的高精度な年代が得られていることが多い.しかしながら東北日本弧の内陸盆地についての地下地質の年代情報は限られており,地形発達過程の復元が限定的である.演者は火山灰編年法に基づき,東北日本弧南部の内陸盆地の第四紀層について中期・前期更新世に遡り堆積史を明らかにし,テクトニックな条件や火山活動が地形発達にどの様に関わるかを検討してきた.その結果,郡山,会津,米沢,山形の各盆地において地下堆積物からテフラを見いだし,長期間に遡る堆積史・地形発達を議論する上でのデータが得られた.以下,それらを整理し東北日本弧内陸盆地各地の地形発達の概要を述べ,講演ではその比較を試みる.


2. 東北日本弧南部内陸盆地の堆積物
郡山盆地 奥羽山脈の前弧側に位置する郡山盆地では,KR-11-1コアおよび土質試料より, Hu-TK(0.15-0.20 Ma), Sn-MT(0.18-0.26 Ma), Sn-SK(0.17-0.27 Ma), So-OT(0.31-0.33 Ma), Sr-Kc-U8(0.910-0.922 Ma)のテフラが検出された(笠原ほか 2017).現在郡山盆地は下刻傾向にあり段丘地形が発達するが,So-OT降下からHu-TK降下にかけての10-20万年間は砂・泥・泥炭などの細粒堆積物が堆積速度0.32-0.16 m/kyrで連続的に堆積した.この堆積速度が過去にわたり等速であったとすれば細粒堆積物は35-40万年前から堆積が始まったことになる.一方でこの細粒堆積物は約90万年前に噴出した火砕流堆積物Sr-Kc-U8を含む,粗粒な礫からなる河川堆積物を覆う.細粒物の堆積開始は下流側に存在する安達太良火山の活動と関係があると思われ,明確な活断層を伴わない郡山盆地の地形発達をテクトニクスで説明するのは困難である.

会津盆地 奥羽山脈の背弧側に発達し,東西に活断層を伴う会津盆地の形成史は第四紀以前に遡る.活断層近傍,盆地中西部の会津坂下町(AB-12-2コア)では深度90 mまでの細粒堆積物中に,Nm-NM(5 ka),AT(30 ka),DKP(60 ka),Nm-KN,Ag-OK,TG(0.129 Ma),Sn-MTのテフラが確認され,堆積速度は0.46-0.19 m/kyrである(鈴木ほか 2016).また盆地中央部(GS-SOK-1コア)でもNm-NMとSn-SKが検出され堆積速度は約0.37 m/kyrと見積もられ,盆地西部から中央部にかけては同様な堆積速度を示すとされている(石原ほか 2015).一方で盆地中東部(GS-AZU-1コア)ではAT,Aso-4(87 ka),Nm-SB(0.11 Ma),Sn-MT,Sr-Kc-U8が検出され,後期更新世以降の平均堆積速度は0.45-0.27 m/kyであり盆地西部・中央部と同等であるが,Sr-Kc-U8の検出に示されるように,中部更新統/下部更新統境界は西側へ傾くとされた(石原ほか 2017).会津盆地では活断層の活動や変位速度に規制されて堆積が進んできたと考えられる.

米沢盆地 奥羽山脈の背弧側に発達し,盆地西縁には米沢盆地西縁断層が存在する.盆地北東部で掘削された2本のコア(B7-1-2 コアおよびB7-1-14 コア)からはAT,Nm-KN,On-NG,Aso-4のテフラが検出された(笠原ほか 2014).Aso-4の深度から堆積速度を見積もると約0.5 m/kyr となり,米沢盆地の盆地床の堆積速度が米沢盆地西縁断層の活動度に依存していると仮定した場合,その平均変位速度0.4-0.5 m/kyr(地震調査研究推進本部 2005)に対して調和的な値である.

山形盆地 西縁に明瞭な活断層を伴う山形盆地において盆地北部,村山市浮沼において地下によりHj-O(11-12 ka), K-Tz,(95 ka)の各テフラが検出され(鈴木ほか 2014),これらから推定される堆積速度は0.37 m/kyrである.掘削地点西側では盆地中央部地下に伏在する活断層として浮沼断層が推測され,段丘地形と地下堆積物から平均変位速度は0.45-0.55 m/kyrと推定された(瀬﨑ほか 2016).K-Tz以深の堆積物の年代はまだ不明であるが,細粒堆積物の堆積速度が一定であれば少なくとも約20万年前から現在に近い堆積環境で細粒堆積物が堆積してきた.

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