日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S504
会議情報

発表要旨
東京大都市圏における若者の観光・レジャー情報の受発信とSNS
*福井 一喜
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

Ⅰ.はじめに
観光・レジャーは,ネット利用が最も早くから進展した分野の一つである.とりわけ観光・レジャー情報のアピールにネットが利用されているが,若者を中心に,個人レベルでのネット利用も一般化し活発化している.
それゆえ近年の観光学では,個人間のオンラインコミュニティ上て゛やりとりされる観光・レジャー情報か゛,個人の観光・レジャー行動を決定つ゛ける最大の原動力になると論じられている.地理学でも,観光者のSNSを用いた情報発信を空間的に捉えようという試みが報告されてきた.これらは観光・レジャー情報の受発信におけるSNSのポテンシャルの予察的な論考であり,またSNS利用者という一部の人々の行動を観光・レジャー資源等の評価指標にしようとする試みである.若者を中心とした,SNSを用いた観光・レジャー情報の受発信が注目されている.
観光・レジャーにおけるSNS利用の実態把握は観光現象の空間性を把握する上で基本的かつ不可欠な作業といえる.しかしながらデータ取得の困難もあって分析されてこなかった.したがって,観光・レジャー情報の受発信をめぐって,どのような地域での観光・レジャーにおいて,どのようなSNSのアカウントが,どのように,どの程度用いられるのかを明らかにする必要がある.本報告ではそのことを,東京大都市圏の若者に対して行ったアンケート調査をもとに検討する.最も主要なSNSとしてTwitterとInstagramの利用を中心的に分析する.
なおSNSに限らずICT利用の空間性の解釈論は情報地理学に豊富な蓄積が見られる.後述するように,本調査結果の解釈にもICT利用の一形態として情報地理学の観点が必要と考える.

Ⅱ.結果の概要
2018年1月に,東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,茨城県に居住する15歳から34歳の1,115名を対象にオンラインアンケートを実施した.以下に結果の概要を示す.居住地は多い順に東京都(37.9%),神奈川県(20.0%),埼玉県(18.6%),千葉県(17.6%),茨城県(5.9%)である.回答者の多くは会社員層と学生層で,「会社員,公務員,専門職」(32.9%)と,学生層の「学生(高卒以上)」(24.2%),「中高生・高専生」(14.6%)が主要グループである.SNS利用率はTwitterが84.9%,Instagramは50.7%である.
都市部と非都市部における観光・レジャー活動中の観光・レジャー情報のSNSでの発信状況は,「していない」の回答者が,都市部では45.1%,非都市部では50.5%で,観光・レジャー情報の発信でのSNS利用率は必ずしも高くない.また都市部と非都市部での差も大きいとは言いにくい.
一方受信について,どのようなアカウントの情報を参考にするかについては,都市部での観光・レジャーでは非都市部と比較して,企業や店舗,芸能人やマスコミの公式アカウントのほか,現実あるいはネット上の知人友人や,いわゆるインフルエンサーなどの個人アカウントなど,多種のアカウントがより参考にされている.ただし,いずれのアカウントも「よく参考にする」「たまに参考にする」は15~40%程度であり,全体としては,都市部でも非都市部でも,観光・レジャー情報の受信においてSNSが積極的に参考にされているとは言いにくい.

Ⅲ.まとめ
以上の結果は,全体として見ると東京大都市圏の若者は,観光・レジャー情報の受発信においてSNSを積極的に利用しているとは言いにくく,また都市部と非都市部での差も小さいと評価することができる.
ただし,それを結論とするのは早計といえる.情報地理学の視座に立つと,SNSに限らずICTの利用強度には居住地や年齢など現実空間での属性だけでなく,本人のICTへの興味やスキル,価値観などオンライン空間との親和性が大きく関わる点が無視できない.本調査でも,TwitterやInstagramへの登録年には,早い者と遅い者で10年以上の差があり,フォロワー数も50人以下から1万人以上の者まで見られる.すなわちSNSに関する習熟度や影響力に大きな差がある.こうしたオンライン空間との親和性に着目して都市部と非都市部における観光・レジャー情報受発信を分析していく.

著者関連情報
© 2018 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top