日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 428
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発表要旨
三国山脈平標山における雪食裸地の侵食深と侵食プロセス
*今村 友則
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抄録
はじめに
 多雪山地の斜面には,積雪グライドや雪崩などで植生が剥ぎ取られたように見える裸地が存在する.本稿では,これらの裸地を雪食裸地と呼ぶ.雪食裸地は積雪による斜面侵食の影響を評価する上で重要とされ,主に森林保全を目的に研究されてきた.その侵食には,表層物質の差異が影響するとされるが,詳細は不明である.また,冬季と夏季の侵食量を比較した先行研究はあるが,侵食プロセスに関するデータの提示はほとんどない.そこで本研究では,三国山脈平標山の土質および礫質の雪食裸地それぞれについて,侵食深や積雪状況の空間分布・季節変化を測定し,侵食プロセスを検討した.

調査地域・方法
 調査地域は,上越県境の三国山脈平標山(標高1984m)の南西斜面である.観測対象とした裸地はA1とB1の2ヵ所で, A1は表層の6割以上に砂質土が露出し,5~10 cmの亜角礫が散在する.一方,B1の表層は約8割が5~12 cmの角礫で覆われる.
 裸地内における侵食や堆積の空間分布を,多数のステレオペア写真からDSM(Digital Surface Model)を作成するSfM(Structure from Motion)測量によって明らかにした.撮影時期は,2016年6月と10月,2017年6月(A1)・7月(B1)と8月(A1)・9月(B1)である.異なる時季の撮影画像から得たDSMの差分をとり,冬季(初夏の融雪期も含む)と夏季の裸地の標高変化を算出した.冬季の標高変化と,積雪グライドによる積雪内のポールの傾きや土壌層の変形の連続観測データを比較し,冬季の侵食プロセスを考察した.また,夏季の標高変化と,裸地に設置した定点カメラ画像の変遷を比較し,夏季の侵食プロセスを考察した.

冬季の侵食プロセス
 A1では所々に深さ1~2 cmの侵食が見られ,裸地下部の緩斜面は堆積傾向にあった.A1の中で地表に礫が多い部分では,個々の礫の移動に伴う比高2~4 cmの侵食部と堆積部の交互配置が確認された.また,積雪期にポールが傾いたことや,土壌層が変形したことから,積雪グライドで土壌が削られ,礫が移動したと推定される.
 B1では比高5~15 cmの侵食部と堆積部の交互配置が裸地の大部分で確認された.その侵食域・堆積域の面積は個々の礫の面積よりも大きいため,多数の礫が集合として移動したことが示唆される.2017年5月には,グライドによる礫の移動で掘り返された土壌が,裸地の表層に現れていた.

夏季の侵食プロセス
 2016年,2017年ともに,A1では,礫が多いところを除き,1~1.5 cmの侵食が見られた.定点カメラ画像には,礫に被さる土壌が雨水で流される様子や,降雨後に流水によると見られる溝が確認され,雨水ウォッシュが生じたと考えられる.また,B1に設置した定点カメラ画像でも,2017年5~6月にかけて,融雪直後に表層に現れた土壌が,1ヵ月程度で洗い流される様子が確認された.
 一方,A1が多い部分やB1では,2016年,2017年ともに,±1 cm以上の標高変化はほとんど生じなかった.

侵食深と侵食プロセスの季節比較
 標高差分の空間平均値で見ると,A1では冬季に0.2 mm,2016年夏季に4.8 mm侵食され,侵食作用は主に夏季であることが判明した.つまり,一旦何らかの誘因で裸地が形成されたあとは,表層の6割以上を覆う細粒土のみに働く雨水ウォッシュが,相対的に強く作用していると考えられる.
 一方,B1では,冬季に10.5 mm,2016年夏季に4.5 mm侵食された.B1は表層の8割以上が礫で覆われ,夏季の雨水ウォッシュよりも冬季の積雪グライドが作用しやすいと考えられる.特に,グライドによる礫の移動が土壌を掘り返し,融雪後の雨水ウォッシュが効果的に働くことで,侵食が進んだ可能性がある.
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