日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P122
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発表要旨
JRA-55を用いた日本付近の前線帯データ作成手法の検討
*高橋 信人
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抄録

1.研究目的

 日本の気候およびその変動は日本付近に現れる前線帯(天気図上で前線が多く現れるところ)の影響を強く受けている。しかし、客観的な前線帯データ作成手法が確立されていなかったため、前線帯の長期的な振る舞いは不明であった。そこでTakahashi(2013, JMSJ)ではNCEP/NCAR(NOAA環境予測センター/米国大気研究センター)再解析値を利用した前線帯データ作成手法を提案し、日本付近の前線帯の季節進行や年々変動および長期傾向を示した。一方、気象庁は2014年に、過去半世紀以上の大気場の気候変化を高精度に解析した気候データセット、気象庁55年長期再解析(JRA-55)を開発、公開した。JRA-55は1958年以降のデータであり、1948年以降のデータであるNCEP/NCAR再解析値に比べて期間は短いものの、高精度で水平方向の空間分解能は1.25度×1.25度と高い(NCEP/NCAR再解析値は2.5度×2.5度)。

そこで本研究では、過去の前線帯データのより高い精度での復元が期待されるJRA-55を用いて、日本付近の前線帯データを作成する手法の検討をおこなった。



2.データと方法

 基本的には、Takahashi(2013)で提案した前線帯データ作成手法と同様のことを、データをNCEP/NCAR再解析値からJRA-55に代えておこなう。すなわち、各グリッドでまずはJRA-55の気温と相対湿度のデータから850hPa面の温位(θ )と相当温位(θe)を算出し、次にそれぞれの南北方向の変化量とThermal Front Parameter(TFP)を求め、さらにそれらの値が一定の閾値以上のグリッドに前線があるものと判断する。閾値に関しては、JRA-55から求めた前線位置と気象庁天気図の前線位置との対応関係が良くなるものを採用する。具体的には2001~2005年の4~11月、12時間ごと、北緯20~50度、東経120~150度の領域において、両前線帯データ間の類似度(Jaccard係数)が最も高くなるときの閾値を採用した。



3.結果

JRA-55と気象庁天気図の前線位置との比較によって得られた最大類似度は、θが0.348、θeが0.418であり、いずれもNCEP/NCAR再解析値で作成した前線帯データから得られた最大類似度(順に0.414、0.440)よりも値が小さかった。

 このようにJRA-55がNCEP/NCAR再解析の前線帯データに比べて天気図の前線との対応関係が悪くなった主な原因は、空間分解能の高さの違いに伴うものと考えられる。図は2002年6月7日午前9時の事例ついて、A)気象庁天気図、B) NCEP/NCAR再解析値から導いた前線の候補(条件を満たしたグリッド)、C) JRA-55から導いた前線の候補を示したものである。これらの図の比較から、データの性質上、JRA-55では高い空間分解能で前線位置が明らかになるものの、九州北部などに局地的な前線が現れていることがわかる。この問題への対応を含め、気象庁天気図の前線分布により類似したデータを作るために、図Cのデータに次の操作を加えて図Dを作成した。

1.前線の不連続性の問題の改良

→ 東西方向に伸びる前線は1グリッドまでの断絶を許す

2.局地的に現れる前線の排除

→ 約1,200km以上の長さを持つ前線のみを残す

3.近接かつ並行して東西方向にニ本伸びる前線の扱い

→ 二本の前線の間のグリッドに前線があるものとする
 得られた図Dをみると、図Cに比べて図Aとの類似性が高まっている。このように本研究の結果からは空間分解能が高いデータを使うことで生じうる問題と、その改善の方向性が示唆された。今後は改善方法をさらに吟味し、天気図の前線により類似した前線帯データを作成するための具体的手法を提案したい。

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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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