抄録
Ⅰ はじめに
那須火山帯に位置する草津白根山は、硫黄鉱山が並列していて硫黄を含む温泉が噴出する(坂本 1990)。強酸性硫黄泉の排水とともに、山体周辺の旧硫黄鉱山からの排水も多く、河川水中のPb濃度が基準値を超える河川が存在する(都築ほか 2011)。このように草津白根山地域には地質学的・地球物理学的ならびに地球化学的関心の高い対象が多く存在している。周辺河川水においても、その水質を把握し、地域特性を明らかにすることで、水環境形成の要因を考察することを試みる。
Ⅱ 研究方法
2017年5月から2018年2月にかけて6回の現地調査を行った。調査地点は山体の東側と南側を流れる河川を中心に、約40地点ほどである。現地では気温、水温、pH、RpH、EC(電気伝導度)、流量の測定を実施した。
Ⅲ 結果と考察
1.東側
東側には吾妻川支流である白砂川には、六合村や草津温泉市街地からの河川が流入する。温泉街中心を流れる湯川ではpH2.0、EC5000μS/cm以上を観測したが、下流の品木ダムではpH5.0、EC1500μS/cm前後と石灰水混合による水質の変化が確認された。
白砂川下流域では弱アルカリ性の水質が観測されるが、いくつかの流入支川では酸性を示し、支川上流域における温泉排水や火山活動の影響を受けた地下水の流入が示唆される。EC値は調査毎に大きく前後しており、大量の温泉排水を貯留している品木ダムの放流状況に影響されている。湯川合流前の白砂川上流域ではEC値は200μS/cmを下回っていながらも、pHは弱酸性を示しており、地質による影響が示唆される。
2.西側・南側
草津白根山西側には万座温泉が位置し、山体東側の草津温泉と同じ酸性硫黄泉であるが、その硫黄含有量は300mg/kg以上と日本で最も多い(市瀬 2009)。万座温泉の排水が流れる万座川は、最終的に吾妻川へ流入し、その支流には旧硫黄鉱山廃水の影響を受けたとみられる強酸性・高ECの河川水が確認されたが、他の河川水はpHは中性に近く、EC値は100μS/cmを下回っており、東側に比べ排水や地質・火山活動の影響は大きくない。
一方で、調査地域中央に位置する滝ノ沢川、赤川、遅沢川ではpH4.0-7.0、EC200-600μS/cmを示し、上流域での鉱山・温泉排水とともに、周囲に広がる畑地からの影響も考えられる。厳洞沢川ではpH2.0、6000μS/cm前後で、上流域に位置している旧硫黄鉱山廃水の影響を強く受けていると示唆される。
Ⅳ おわりに
草津白根山ではその特徴的な地質や火山活動により、多くの温泉水とともに硫黄鉱山を源とする強酸性・高EC値の排水が周辺河川水に大きな影響を及ぼしていることが把握できた。今後は河川水だけでなく、地下水や温泉水、降水と研究対象を水環境全般に広げるとともに、TOCや主要溶存成分の分析を行い、一般水質から対象地域における水環境の特性を明らかにしていく。
参考文献
坂本直樹(1990):草津白根山, 新砂防, 43(1), 38-41.
都築達矢, 木川田喜一, 大井隆夫(2011):吾妻川中流域の水質に対する草津白根火山地域の温泉水・鉱山廃水の影響, 日本地球化学会年会演要旨集, 58(0), 9-20., 253.
南英一, 野村昭之助, 小坂丈予(1968):草津温泉及びその附近の地球化学的研究, 日本温泉気候物理医学会雑誌, 32(1968-1969) 1-2, 21.
