日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 928
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発表要旨
大正・昭和初期における山村地域からの出寄留増加の実態
愛知県東加茂郡賀茂村『寄留届綴』の分析から
*鈴木 允
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抄録
大正期の日本では,人口転換の萌芽が見られるとともに,産業化を背景とした都市化が急速に進行していた.本研究の目的は,この時期の日本の地域間人口移動の実態とそれが人口変動に与えた影響を検討することであり,中でも大正期から昭和初期にかけて,山村地域から都市部への出寄留の動向がどのように変化したのかを明らかにすることである.
 前稿(鈴木2018)において筆者は,愛知県東加茂郡賀茂村(現豊田市の一部)の大正期の『寄留届綴』に纏められた寄留届書類の個票を集計したデータベースを作成し,出寄留者の属性や寄留地などの傾向を分析した.その結果,当時の山村地域からの出寄留者は,愛知県内の他市町村への寄留が圧倒的に多いことや,①近隣都市の工場へ住み込みで働きに行く多数の10代の居所寄留者,②岡崎市・名古屋市などの都市部への住所寄留者の2パターンが多数を占めていたことが明らかにされた.①は女工が多数を占め,数年後に帰村する場合が多い一方,②では世帯単位での随伴寄留者も多く,寄留先の都市内部で転寄留をすることはあっても帰村することは少なかった.①・②は,都市部への明確な人口流出と世帯単位での定住化傾向を示唆するとともに,人口転換との関係では,①が女性の結婚年齢の上昇や出生率の低下に影響を与えた可能性,②が都市人口比率の上昇をもたらし,このことが低出生率の人口の増加を意味したことが考えられた.
 本研究は鈴木(2018)の成果を土台とし,検討が及んでいない対象期間内の寄留動向の動態的な変化を明らかにするものである.対象期間を大正期から1930(昭和5)年まで延長し,鈴木(2018)で検討した各種の指標について(1)1916~20年,(2)1921~25年,(3)1926~30年の3つの期間ごとに算出し,その比較から動態的な変化を把握することを試みた.前稿同様に1916(大正5)~1930(昭和5)年の賀茂村『寄留届綴』から,賀茂村本籍者の寄留情報をデータベース化する手法から,のべ2,888人分の有効な寄留情報を得た.なお,検討対象期間における賀茂村は出寄留超過傾向を示していたが,1930年にかけて本籍人口が大きく増加した一方,現住人口は微増にとどまっていた.この間に多くの出寄留者を出したことが窺える.
 具体的な分析結果として,期間(1)から(3)にかけて住所寄留者・住所転寄留者が大幅に増加した一方,居所の各種届出者数及び本籍への復帰者数はやや減少傾向であった.なお,住所寄留先は岡崎,名古屋などの県内の都市部が中心で,転寄留者のほとんどは同一都市内での転寄留であった.期間(1)~(3)を通じて,出寄留先に大きな変化は見られなかった.
 また,期間(1)から(3)にかけて随伴での住所寄留者が主に増加しており,戸主との続柄別では戸主本人や妻・婦の住所寄留が増加していた.本籍に戻る寄留者の少なさも踏まえると,生活の拠点を都市部に移す世帯が,期間(3)にかけて大幅に増加していったことが考えられる.
 こうした動向の変化が,どのような社会・経済的背景のもとに生じたのかを検討していくことが課題である.
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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