日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 424
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発表要旨
天山北部地域,イシク・クル湖流域における氷河湖の面積変動と地形環境
*奈良間 千之ダイウロフ ミルラン山之口 勤田殿 武雄
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抄録

1.はじめに
 キルギスタン北東部に位置するイシク・クル湖流域では,2006年~2014年にかけて4回の氷河湖からの大規模出水が生じた.これら出水した氷河湖は,数か月~1年の間に出現・出水する短命氷河湖と呼ばれるタイプである.2008年7月には,西ズンダン氷河湖がわずか2か月半で出現・出水し,この出水による洪水で3名の犠牲者や家畜の被害がでた(Narama et al., 2010a).2013年8月にはジェル・ウイ氷河湖,2014年7月にはカラ・テケ氷河湖で出水が生じ,灌漑用水路や農地が破壊された(Narama et al., 2018).短命氷河湖の出水は,ネパール東部の氷河湖決壊洪水にみられるようなモレーンが決壊するタイプでなく(Yamada, 1998),氷河前面のデブリ地形内部に発達するアイストンネルの閉鎖によって,凹地に一時的に融氷水が貯水され,トンネルの開放によって出水するタイプである.この出水路の開閉は,氷河湖の面積変動に大きく影響するが,その実態はよくわかってない.そこで本研究では,衛星画像解析から2013年~2016年の氷河湖の面積変動を調べ,その変動特性と地形環境について検討した.
2.地域概要
 キルギスタン北東部に位置するイシク・クル湖流域は,北岸沿いにクンゴイ山脈,南岸沿いにテスケイ山脈が東西に連なる.クンゴイ山脈南側のチョルポン・アタ測候所(1645mm)の年降水量は307㎜,年平均気温は8.1℃で,テスケイ山脈北側のチョング・クズルスウ測候所(3614m)の年降水量は594㎜,年平均気温は0.2℃である.クンゴイ山脈とテスケイ山脈における1970年~2000年の氷河面積は,8~12%減少している(Narama et al., 2010b).
3.研究手法
 2013年~2016年の6月~10月に取得された128枚の衛星画像(Landsat8/OLI)を用いて,339コの氷河湖(>0.0005 km2)の各年の季節変動から,stable(停滞),increasing(拡大),decreasing(縮小),appearing(出現),vanishing(消失),short-lived(短命氷河湖)の6タイプに分類した.面積変動の要因を検討するため,氷河前面のデブリ地形から,ALOS-2/PALSAR-2の差分干渉SAR(DInSAR)解析により,内部に氷を持つデブリ地形を抽出した.さらにUAVによる空撮画像から作成したDSMや空中写真のDSMを用いて,短命氷河湖が出現する地形場について検討した.
4.結果
 2013年~2016年の衛星画像解析から339コの氷河湖を6つのタイプに分類した結果,appearing,vanishing,short-livedの3つのタイプの湖を多く確認した.氷河前面のデブリ地形はテスケイ山脈で930コ,クンゴイ山脈で180コあり,そのうちDInSAR解析によって選別された埋没氷を含むデブリ地形はテスケイ山脈で413コ,クンゴイ山脈で71コであった.1971年~2010年にかけて出現した凹地はテスケイ山脈で196コ,クンゴイ山脈で22コあり,最近の氷河縮小で氷河湖が出現できる多くの凹地が形成された.
5.考察
 ヒマラヤ東部地域ではincreasingやdecreasingが主要な氷河湖変動であり(Nagai et al., 2017),これらは気候環境や氷河縮小に大きく影響している.一方,研究地域で多く確認されたappearing,vanishing,short-livedのタイプは,単純な氷河縮小によるものではない.これらは,氷河前面に発達する埋没氷を含むデブリ地形とアイストンネルの発達,凹地の存在,凹地からの表面流路がないこと,凹地への氷河からの融氷水の供給があること,さらにはアイストンネルの開閉という地域的な地形環境が特異な変動を引き起こし,短命氷河湖のような大規模出水による洪水が生じていると考えられる.

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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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