日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 834
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発表要旨
南チロルのアグリツーリズモ経営における農村女性の関わり
*五艘 みどり
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抄録
研究の背景と目的
 
イタリア北部の南チロル(ボルツァーノ自治県)では、1990年代以降アグリツーリズモを中心とした農村観光が発展した。イタリアのアグリツーリズモ経営者のうち約35%は女性であり(ISTAT, 2013)、今や農村観光の発展に農村女性の関与は不可欠とされるが、南チロルの農村観光においても女性の積極的な関わりが見られる。南チロルはその歴史的経緯から自治意識が強く、地域の産業とその人材育成に力を注いできた。結果として、主要産業である農業の強化と、農業を支える農村女性の地位向上が図られた。南チロルでアグリツーリズモが農業を補完する産業として推進された際、農村女性はアグリツーリズモ経営に多いに関与するに至ったのである。本研究は、こうした南チロルのアグリツーリズモ経営における農村女性の関わりのあり方を明確にすることを目的としている。

研究の内容と結果
 
本研究の調査方法として、南チロルの農村女性へのインタビュー調査を、中心部ボルツァーノに近いサン・ジェネジオ地域を対象に、2017年9月に10日間を要して実施した。当該地域で営業されている18のアグリツーリズモのうち13がインタビューに応じ、その内容は農業およびアグリツーリズモの状況、農村女性の経営への関与と役割に亘る40項目とした。調査の結果をまとめると次の通りである。
 農業およびアグリツーリズモの状況だが、地域の主要農産物は牛乳、ブドウ、肉牛(豚)などで農家の約半数が混合農業を営み、9割がジャム、ワイン、生ハムなどの農産加工品を家族・知人と観光客向けに生産している。アグリツーリズモは所有施設を改修し1981年から2015年の間に開始された。総収入のうち観光収入が30%を超える農家が7割に上り、観光が農家の安定的経済基盤の一助になっている
 アグリツーリズモにおける農村女性の経営への関与と役割についてだが、農村女性の91%は南チロル出身で親の職業も農家という保守性が認められた。しかしながらアグリツーリズモ開業の主張が女性主導であった農家が69%、アグリツーリズモを支援する南チロル農民連合主催の経営等のセミナー参加も女性が67%、農村らしさを観光客向けに演出する施設の装飾も女性の実施が85%と、女性が積極的に経営に関与する実態が見られた。観光客への食事提供は家族全体で行うと回答した農家が多数だが、メニュー考案や調理は女性主導の傾向であった。またアグリツーリズモ開業前後の農村女性の役割の変化については、育児や家事といった家庭の仕事量に大きな変化はないものの、男性の参加の拡大が認められる傾向にあった。一方で意識の変化としては、農村女性の経営参画が推進された、経済力が向上した、自立の機会が拡大した、という点が挙げられ、社会的立場における意識の変化が見られた、

結論
 南チロルにおける著しい農村観光の発展は、開業から経営および実務に至るまで農村女性が積極的に関わったことが大きく影響したと言える。また一方で、農村観光が発展し農村女性がそこで活躍の機会を得ることで、家庭での役割の変化や、社会的における意識の変化も起こったとも考えられ、農村観光の発展と農村女性の社会的な地位向上は相互に深く影響し合っていると考えられるのである。

謝辞
 
本研究はJSPS科研費17K02128(農村の観光産業化における住民幸福度の日伊比較研究)を受け実施した。
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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