抄録
景観写真で読み解く身近な地域の生活景
Understanding of Living Landscape in Local Region by Landscape photographs
椿 真智子(東京学芸大学)
Machiko TSUBAKI (Tokyo Gakugei Univ.)
キーワード:景観写真,身近な地域,生活景,関係性,複合性
Keywords:landscape Photograph, Local region, Living landscape, Relation, Compositeness
1.身近な地域の理解と景観写真
地域を構成する諸要素が複合的に関係しあって成立し形成された景観は、地理的見方・考え方の理解・育成に欠かせない素材である。さらに景観は今日、地域資源としての価値、さらには地域社会・人びとのアイデンティティと密接に関わる存在としても重視されている。景観写真は、複合的存在としての景観を意図的に切り取り表現した学習・研究素材である。景観写真を読み解くことは、景観を地理的に理解し意味づけることにほかならない。しかしながら、読み手が景観写真のいかなる要素をどのように抽出し解読するかは、従来、読み手の知識・技能・経験や裁量に多くゆだねられてきたと考えられる。
身近な地域の景観は日常のありふれた風景であり、そこから何を地理的に理解すべきかを明示することは、教師にとっても難しい課題である。一方、その理解においては、日々の生活行動・体験やフィールドワークを活用・反映させやすい。身近な地域の景観を読み解くことは、生活者の視点から地域を理解すること、すなわち生活景への地理的アプローチでもある。景観をとおした日常に対する新たな発見は、新鮮な驚きや好奇心を喚起し、身近な地域・生活への関心を高める手立てとなる。また景観をとおした地域理解は、地域社会の課題や持続性を考える基礎としての意義を有する。
そこで本報告では、景観写真を素材とした身近な地域の地理的理解における視点・枠組みを整理し、景観写真の有効性と活用方法とを考察する。さらには、景観写真を用いた東京学芸大学での地理教育的実践をとおして、大学周辺地域を事例に、生活景の地理的理解の方法と意義について提示したい。
2.景観写真の特性
景観写真については、石井實・原眞一両氏をはじめとする地理学・地理教育の研究蓄積に加え、建築学・景観工学・メディア研究等さまざまな分野で活用・議論されてきた。とくに地理教育的側面からみた景観写真の特性、すなわち有効性と限界・制約は以下のように整理できる。
〈景観写真の有効性〉①現場での直接体験の代替、②地域・場所や事象、人びとに対するより高い興味・関心や動機付け、想像力、イメージの明確化や理解、③現実世界・生活世界に対する人の目線・眼差しによる情報の提示・理解、④同じ地域・場所における時間・季節等の変化、生活のリズムの説明・理解、⑤多面的・複合的要素の説明・理解(関係性の論理)、⑥非恒常的・瞬間的事象や一過性を有する情報の提示・理解、⑦比較考察による差異・共通点の提示・理解、⑧資料としての記録・保存、⑨フォト・ランゲージやフォト・コミュニケーションの素材、⑩地理的理解・技能の育成・深化の素材
〈景観写真の限界・制約〉①直接体験にくらべ情報が制限される、②撮影者(提示者)ならびに読み取る側の主観性や恣意性、意図が含まれる、③撮影者(提示者)ならびに読み取る側の技術や方法、能力・経験・知識により説明・理解可能な内容・量・質が異なる、④撮影範囲の制約、⑤固定的イメージや偏見・先入観を与える可能性、⑥撮影者(提示者)と読み取る側でのズレが生じる可能性
3.景観写真で読み解く身近な地域の生活景
身近な地域の特徴を説明するための景観写真を撮影することで、自ら景観を切り取り表現するプロジェクトを実践した。景観写真における個々の景観要素の関係性と複合性とを説明することは、地域の地理的理解に必要な視点や観点の習得を促し、景観をとおして地域を主体的に理解する有効な学習方法となりえる。