日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 726
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発表要旨
流域内における「谷津田」の分布と周辺土地利用
*スプレイグ デイビッド
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キーワード: 水田, 谷津田, 植生図, GIS
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抄録

1.はじめに
 台地を浸食しながら上流へ向かって枝分かれしていく狭い沢の中で耕作される「谷津田」を地図化するために、その最大の特徴である幅を利用し、一定の幅を基準に水田データから抽出することが可能である。例えば、1980年ごろには幅100 m以内の水田が関東地方の水田の約16%を占めることが環境省現存植生図データの解析から分かった(スプレイグ, 2017)。しかし、幅のみで水田を抽出する上記の手法では、幅が変化する細長いポリゴンの中のどのような部分が抽出されるかについて情報が得られない。
 「谷津田」のイメージとしては、樹枝状に展開する水田の先端部分を想定する場合が多い。また、水田ネットワーク内の位置によって、周辺の土地利用などが異なる可能性がある。生態学者が注目する、生き物にとって都合のよい生息地を提供する環境が水田ネットワークのどの部分に存在するかを確認するには、水田ネットワークにおける狭い水田のどの割合が先端部分にあるか、あるいは中流部分であるかを把握する必要がある。
 本研究では、地理情報システム(GIS)で水田ポリゴンデータを対象に、一定の幅を基準にポリゴンを類型化しつつ、水田ネットワークの先端部分と中流部分を区別して、全水田に対するその割合と周辺の土地利用、特に樹林との関係を明らかにした。
2.解析データおよび手法
 環境省現存植生図の水田ポリゴンを対象に、幅100 m以内の水田を「狭幅水田」と定義し、ポリゴン幅を検出するGIS解析を実施した。全水田ポリゴンを詳細にTin化し、幅100 m以内とそれ以上の部分に区分けした。次に、狭幅水田の内、一方向のみに水田が連なる先端部分と、2方向以上に水田が連なる中流部分を判別した。そして、それぞれの狭幅水田に対して、隣接するその他の土地利用を、周長距離の割合として表した。
3.結果
 台地上に展開する水田は先端に向かって徐々に狭くなるので、狭幅水田の多くはその先端部分にあり、樹林と接する水田の高い割合を示した。しかし、狭幅水田は中流部分にも多く存在した。また、低地の広域水田域の中にも幅が狭い箇所や、先端的な形状の小さい水田も多く抽出され、これらは畑地や市街地など、より多様な土地利用と接していた。
4.討論
 幅による水田のGIS解析の結果、典型的な「谷津田」と見なすことのできる水田も多く抽出でるが、幅の狭い水田は様々な形状の水田域の中に存在し、あらゆる土地利用に囲まれている。狭い水田の多様な景観機能を考慮することも必要であることが指摘できる。
文献
D.スプレイグ(2017)地図情報から作成する「谷津田」のGISデータベース.日本地理学会春季学術会議.
付記
本研究は平成26~29年度科学研究費補助金(課題番号26560159)の一部を使用して実施した。

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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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