日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 321
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発表要旨
GIS実習用教材の改良のための利用状況調査
*山内 啓之小口 高早川 裕弌瀬戸 寿一荻田 玲子
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抄録
演者らは,GIS教育の充実を目的に,大学の実習授業や個人の自主学習等に利活用可能な教材を開発するプロジェクトを行っている(科学研究費基盤研究 A「GIS の標準コアカリキュラムと知識体系を踏まえた実習用オープン教材の開発」,平成 27~31 年度,代表者:小口 高)。本プロジェクトで整備した教材は,GIS Open Educational Resourcesと題して,オンラインで公開している(https://gis-oer.github.io/gitbook/book/index.html)。

これまで本プロジェクトでは,整備した教材を実際に大学の実習授業や講習会等で利用し,教材の難易度,視認性,利便性等に関するアンケート調査を行ってきた。また,同様の項目で,個人の自主学習者を対象としたアンケート調査も実施してきた。本報は,上記のアンケート調査の結果を踏まえて,現行の本教材が持つ問題点を整理し,教材の改良点について検討したものである。

本教材の主要な問題点は,教材の解説文の充実度と,操作を解説した図の視認性とに大別できる。その他に,個人が自主学習をする場合には,実習用データの準備が煩雑であるといった点もあげられる。

解説文の充実度については,GIS初学者が躓きやすいソフトウェアの操作や,GISの用語等に関する解説が充実していないという指摘があった。これまでに演者らが行った実習授業では,ソフトウェアの初期操作や,データ形式の理解のような学習の入門段階で,受講者が難しさを感じる傾向があった。また,比較的GISの操作に慣れた段階でも,空間座標系の変換のようなGIS特有のデータ処理の際には,受講者が難しさを感じる傾向があった。上記のような難しさを感じやすい実習については,教材の解説文の改良を求める意見も数多く収集された。

操作を解説した図の視認性については,教材に従って学習する際に,図が小さいために処理の選択画面やパラメータの値が,読み取りにくいという指摘があった。GISの基礎操作は,マウスの操作によるものが多いため,操作を解説した図の視認性を高めることは重要といえる。

実習用データの準備が煩雑という指摘は,自主学習の際に外部のサイトから,データ取得し加工する作業に関連する。実習用データの作成時には,空間座標系の変換や,領域の切り出し等の処理を行う必要がある。これらの手法は各教材で解説されてはいるが,GISの初学者にはやや複雑である。本プロジェクトの当初の計画では,教材に応じて必要なデータを外部から取得し加工することで,より実践的なGISの活用技能が育成できると想定していた。しかし,GISに慣れていない段階では,各教材の主題の学習に集中しづらくなったり,誤ったデータを作成したために学習が混乱したりする事例がみられた。

 以上を踏まえて本プロジェクトでは,教材の解説文の充実,操作を解説した図の視認性の向上,実習用データの新たな整備と提供を行いつつある。教材の解説文の充実では,受講者が躓きやすいソフトウェアの操作や,データ処理を中心に解説文を改良している。特に,誤った操作をしやすい空間座標の変換のような処理は,利用者が理解しやすいように正誤の事例を併記する等の工夫を取り入れている。

操作を解説した図の視認性の向上では,図を作成する際に,ソフトウェア全体でなく,対象の箇所のみをトリミングし,サイズを大きくするといった工夫を取り入れつつある。実習時に利用するモニタのサイズによっては,画像が小さく表示されることも想定されるため,部分的に画像の拡大ができるような機能の実装も検討している。

実習用データの整備と提供については,各実習と対応して利用できるデータセットの作成とオープンライセンスでの公開を進めている。データセットは,無償で自由に利活用できるOpenStreetMap,SRTM(Shuttle Radar Topography Mission),地方自治体のオープンデータを活用する。
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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