日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 720
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発表要旨
在留外国人の定住過程における宗教空間の役割
カトリック教会におけるフィリピン人信徒を事例として
*川添 航
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抄録
日本における在留外国人人口は増加を続けており,2019年現在,国内に約264万人が居住している。本研究では,国内に居住する代表的なニューカマー集団である在留フィリピン人の定住過程に着目し,宗教施設がどのような役割を有していたのかについて,カトリック教会における宗教活動と在留フィリピン人信徒の日常生活との関係性から明らかにした。研究対象地域として,近年在留フィリピン人人口が増加傾向にある茨城県南部を選定し,聞取り調査から得たデータから考察を行った。在留フィリピン人は,主に1980年代から現在まで継続してカトリック教会を訪問している。訪問にあたっては,職場のフィリピン人の友人・知人から情報を得た,もしくは,地域のカトリック教会について自ら探索を行い情報を得たという事例が多い。また,ミサや宗教活動に参加するという目的だけでなく,地域におけるフィリピン人共同体と交流することで,社会関係の構築や日常生活に必要な情報収拾を行うという目的も含まれていた。来日当初においては,宗教施設が現地のエスニック・コミュニティとの接触点として認識されているといえる。在留フィリピン人の社会関係に着目すると,地域社会における定住が進んだ現在においても依然としてカトリック教会の存在が大きいことが明らかとなった。このような宗教空間を介して形成された社会関係は,性別,国籍における同質性を有しており,宗教施設外における交流へと拡大することもある。近年ではこれらの社会関係をもとに,母国の慣習を取入れた宗教的イベントを在留フィリピン人自身が企画・運営するようにもなった。フィリピン人の来日後の日常生活においては,日本人男性との国際結婚や頻繁な転職,それらに伴う長期定住化・非集住型定住傾向が指摘できる(高畑 2012)。これらの社会経済的背景は,カトリック教会以外の生活空間で形成される社会関係が断絶されやすく,また深化しにくいことを意味しており,宗教空間を介した社会関係は相対的に持続性の高いものとなっていた。これらの要因からも,来日初期から定住化を経た現在まで,宗教施設が在留フィリピン人社会における社会的な拠点として機能しているといえる。また,独自の宗教的イベントの実施は在留外国人の宗教共同体の自立を象徴しており,これらの実践により,母国の文化やフィリピン人アイデンティティの維持が図られていると考えられる。以上のように,宗教空間は在留外国人自身の社会経済的な文脈により様々な役割が付与されてきた。これらの役割は定住過程において変容し,現在まで日常生活において重要性の高い領域となっていることが明らかとなった。
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