主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2019年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2019/03/20 - 2019/03/22
Ⅰ はじめに
新河岸川流域は、かつて水質悪化が顕著な地域であったが、近年流域下水道や親水事業で水質が改善しつつある。しかし、狭山丘陵に位置する支流の上流部においては依然水質が改善していない地域も存在し、汚染源の特定や水質改善を図っていくには源流域における調査・研究が重要である。今回は、狭山丘陵周辺において河川を調査した結果をもとに、水質を中心とした水環境の特徴を考察する。
Ⅱ 対象地域
狭山丘陵は、東京都と埼玉県の5市1町にまたがる地域である。高度経済成長期から都市化が急速に進む一方、多摩湖や狭山湖の周辺には森林が分布し、里山の環境を残している。河川のほとんどは新河岸川水系に属する支流で、狭山丘陵はそうした水流の源流部である。
Ⅲ 研究方法
既存研究の整理と検討を行った上で、現地調査は2017年11月から月に1回行っており、これまでに15回行なった。現地では、水温、気温、電気伝導度(EC)、比色pHおよびRpH、を計測し、採水して実験室に持ち帰り、全有機炭素の測定と主要溶存成分の分析を行なった。
Ⅳ 結果・考察
ECは、100-300μS/cm前後の地点が多かったが、不老川の上流で2,000μS/cm以上、1,000μS/cm以上の大きい値があり下水や生活排水が混入していることが考えられる。一方で、南西部の一部河川・湧水では100μS/cmを下回る良好な水質を示す地点あった。pHは7から7.5前後であり、RpHは8.0から8.5前後まで上昇する地点が多いが、南東部の一部地点では8.8を超える地点も存在し、滞留時間が比較的長いことが考えられる。水質組成は、多くの地点においてCa-HCO₃型を示しているが、北西部の河川を中心に硝酸が多く検出された。北西部においては近郊農業が盛んであり、下水道普及率が比較的低いことで硝酸多く出ていることが考えられる。東部の六ッ家川や南東部の空堀川、野火止用水の地点では極端なNaCl型の水質組成となり、生活排水や下水の処理水が多く流れ込んでいることがわかる。また、南部を中心にアンモニアが出ている地点があり、生活排水の影響が考えられる。
Ⅴ おわりに
都市域であるためECが高い地点があり、依然として水質が改善していない地点が見られ、また農業による硝酸の影響が残る地点も多く分布していた。今後も継続的に調査を行ない、季節変化などを注意深く考察する必要がある。
参 考 文 献
乙幡正喜・矢巻剛・小寺浩二・浅見和希 (2018):狭山丘陵の水環境に関する水文地理学的研究(1),日本地理学会2018年春季学術大会講演要旨集.