日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 616
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発表要旨
旧厚見郡加納町を事例とした市街地の地租改正事業の様子
*飯沼 健悟
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抄録

はじめに
岐阜県美濃地方において,明治初期に行われた地租改正事業は明治9年に概ね完了がされた。その後,地押調査として明治18年(1885)2月25日『地籍編纂心得書』,同年5月12日『地籍帳及地圖整理手続』の公布による地租改正成果の再調整は,明治21年(1888)に岐阜県下の概ねの地域で完了させている。
その成果が引き継がれた,旧土地台帳及びその附属地図は,現在は登記所に備え付けられ,土地境界の確認を行うには,それら資料を基として行っている。
地租改正事業では,江戸期における城下町や士族屋敷地などの無税地である地子免許地についても公正に地租を徴収するために調査が行われ,それは市街地として区分された。
土地境界の確認において,市街地となっている地域は,地価が高く,土地境界が抱える問題も複雑な権利関係に起因するものがある。そのため,非常に慎重且つ適正な判断が求められている。
本報告では,市街宅地として地租改正事業が行われた旧厚見郡加納町について研究をし,市街地における土地境界の確認との関係を考察したい。

市街地における地租改正事業
明治政府は,東京府下において明治5年(1872)1月「東京府下地券発行地租収納規則」を定め『沽券』と称して証書を発行し,その実施を基に,各地方の地子免許地に対する地租調査への実施が租税寮より達せられた。岐阜県への達しは,明治5年3月であった。
佐藤甚次郎は『明治期作成の地籍図』で,「市街地の宅地については,郡村地の耕宅地とは異なって地価が高く,寸地も問題になるだけに,特に綿密な測量が要求された。」(佐藤1986)とあり,それらの地域は『市街宅地』として区分され綿密な調査が行われたことを明確にした。
岐阜県では,旧厚見郡岐阜町,旧厚見郡加納町そして旧安八郡大垣町の3か所がその対象となり,これらの地域の地租改正事業は明治9年に完了され,順次,沽券の発行が行われた。

市街宅地の丈量
市街地における丈量手順は明治9年(1876)3月7日公布の「市街地地租改正調査法細目」で確認ができる。
同細目第1章第1節において「丈量にあたっては,1カ町の周囲を測量して面積を求めておき,次に各宅地についての実測し,その合計と1カ町総面積との合致を検討するという仕方」(佐藤1986)とある。
一筆地の調査について,建物同士が密接しているような状態で,どのように行われたのか確認できないが,後述する市街地の地引絵図では,丈量は三斜法により行われている。そして,その許容誤差は「市街地宅地では100坪に対して2坪,即ち2%を土地丈量の許容誤差として認定」(塚田1986)であるとされている。

市街地の地引絵図
岐阜市役所には,旧厚見郡加納町にある安良町を丈量した絵図が保管されている。作成年が不明であるが,所有者履歴から明治初期に作成されたものと推測ができ,記載の項目は地租改正地引絵図に類似している。
この地引絵図には,土地の形状,三斜区分による底辺及び高さ,三斜法による坪数及びその総計,そして所有者名が記載されている。それぞれの距離が寸単位まで記載されていることから,丁寧に丈量がされたことが確認できる。
また,道路部分についてはのこぎり刃のような形状の箇所もあり,道路境界も丁寧に調査されていることも確認ができる。しかし,記載の総坪数と,旧土地台帳との坪数とが一致しない箇所が多く見受けられる。数勺程度の差ではあるが,原因は定かではない。
また,加納町にある宅地以外の土地の地租改正地引絵図には,岐阜県美濃地方で一般的に用いられている十字法ではなく,間口,裏(間口)と奥行の寸法が記載され,台形の求積に近い方法が用いられている。宅地以外であっても地価が高いことから,丁寧に丈量がされていた様子がうかがえる。
更に,明治18年に作成された加納町の開墾による野取絵図には,丈量に三斜法を用いられていることからも,その丁寧な様子は確認できる。

まとめ
地価が高く,慎重かつ適正さが求められた市街宅地及びその周辺における地租改正事業は,郡村宅地とは異なった作業により行われたことがこの調査で確認できた。
地租改正当時から変化のない市街地では,丁寧に調査された成果である明治期の地租改正事業による成果は,土地境界の確認において最も重要な資料の一つであることが確認できた。
旧来の市街地において土地境界問題を解決するには,これら成果を活用することは効果的であり,これらの研究を深め,各地域で検証していくことは,これからの課題である。

参考文献
佐藤甚次郎(1986) 『明治期作成の地籍図』 古今書院
塚田利和(1986) 『地租改正と地籍調査の研究』 お茶の水書房
岐阜県(1998) 『岐阜県史』 太洋社
太田成和(1954) 『加納町史』 加納町史編纂所 (大衆書房復刻)

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