日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 432
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発表要旨
ケニア山山稜南斜面における氷河周辺の地形
*山縣 耕太郎奈良間 千之
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抄録

1.はじめに
 東アフリカ赤道直下に位置するケニア山では,近年山頂周辺に分布する氷河が急速に縮小していることが確認されている.こうした氷河の縮小,消滅は,山麓に生活する住民や周辺地域の生態系に多大な影響を及ぼす可能性が指摘されている.本研究では,ケニア山の氷河変動の将来予測に寄与するために,完新世以降の長期的な変動を復元し,その特性を明らかにすることを目的とする.
2.調査地域
 ケニア山は,ナイロビの北北東約150kmに位置する標高5,199mのアフリカ第二の高峰で,東アフリカ大地溝帯の形成が始まった約300万年前から260万年前を中心に形成された成層火山である.山頂周辺は,氷期に強い氷食を受け,火道を満たした堅い溶岩が削りだされ岩峰を形成している.山腹にはU字谷が放射状に刻まれ,氷河期には標高3000m付近にまで氷河が拡大したと考えられている(Mahaney et al., 1989).
山頂付近には,現在11の氷河が存在する.特に山稜の南斜面で発達が良い.これは,この方位が日射に対して影となっていること,および日々の局地循環による雲の発達がこの斜面で特に著しいことによる(白岩,1997).山稜南斜面に位置するLewis氷河とTyndall氷河は,ケニア山における1番目と2番目に大きな氷河である.これらの氷河については19世紀の終わり以降の変動がよく記録されている(水野,1994).
3.ケニア山における氷河地形編年
ケニア山における過去の氷河作用について,Baker(1967)は,ネオグラシエーションの氷河前進期を認め,ステージⅣとした.さらに,Mahaney(1984)は,このステージⅣを堆積物の地形的位置,風化の状態,土壌断面の特徴等から判断して,古い方からTyndall前進期とLewis前進期に区分した.Tyndall前進期のモレーンは,Tyndall氷河前面のみで認められる.さらに下方のTyndall氷河の谷とLewis氷河の谷が合流する付近には, LikiⅢ前進期のモレーンが認められる.
それぞれの氷河前進期の年代については,堆積物中に含まれる有機物の14C年代からLikiⅢ前進期については晩氷期の約12,500年前,Tyndall前進期については約1,000年前と推定されている(Mahaney et al., 1989).Lweis期のモレーンについては,小氷期に形成されたものと考えられている.
4.Tyndall氷河・Lewis氷河前面における完新世氷河地形の再検討
今回の調査でTyndall期のモレーンは,さらに5つの時期に区分されることが確かめられた.最も下流に位置するTM5は,LikiⅢ期のモレーンに接していることから,ほぼ同じ時期のものと考えられる.したがってTyndall期のモレーンは,約1万年前から1,000年前までの時期に形成されたものと考えられる.それぞれの年代については,さらに検討を必要とする.
Lewis期のモレーンは,植生の被覆度や,岩礫を覆う地衣類の被覆度から,Tyndall期より明らかに新しいモレーンとして区別できる.Lewis期のモレーンについては,Tyndall氷河前面においてさらに2時期,Lweis氷河前面においてさらに4時期に区分可能である.それぞれの年代については,Lichenmetryによって検討を行う.
Lweis氷河とTyndall氷河を比較すると,Lweis氷河では,Tyndall期とLweis期の氷河拡大規模がほぼ同程度であるのに対して,Tyndall氷河前面ではLweis 期の拡大規模の方が明らかに小さい.このような挙動の違いは,涵養域および圏谷出口付近の地形の違いによるものと考えられる.

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