日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 805
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発表要旨
福岡県飯塚市における合併後の「行政資源」の配分と住民の評価
*美谷 薫
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抄録

1 はじめに

 全国的な「平成の大合併」が一定の終結をみてから,およそ10~15年が経過し,合併後の特例的な行政体制も解消されつつある.合併市町村における行政の展開も新たなステージに入ってきているものといえよう.

 合併後の行政の取り組みや地域の変化については,多くの学問分野で研究が蓄積されてきている.そのなかでは,市町村合併という行政区域の再編は,「地域政治・行政」のしくみを変更するだけでなく,「地域社会」や「地域経済」の変化をもたらしうるが,それらは合併により,政策・事務・事業/権限/財源/人員/施設といった「行政資源」の配分形態が変化することが大きな要因であるととらえることができよう.したがって,合併による「行政資源」の配分の変化の事例を蓄積し,そのメカニズムをより詳細に検討する必要があるものと考えられる.

 本報告では,上記の作業の一例として,福岡県飯塚市における,合併後の主要施策や事業費の執行状況などから「行政資源」の配分の一端を整理するとともに,それらに対する住民の評価を明らかにすることを目的とする.



2 研究対象地域の概要

 福岡県飯塚市は福岡市から30㎞強の位置にあり,筑豊地方最大の都市となっている.明治期以後,基幹産業である炭鉱を中心に成長してきたが,1950年代後半からの相次ぐ炭鉱閉山により人口の急減を経験した.このため, 1963年には旧飯塚市を中心とした4市町村での合併を実現した.

 「平成の大合併」の期間では,合併協議の破綻を経験しつつも,旧飯塚市と筑穂町,穂波町,庄内町,頴田町の1市4町での合併により,2006年3月に現在の市域での飯塚市が発足している.



3 合併後の主要施策と投資的経費の配分

 合併後の「行政資源」の配分の事例として,ここでは,飯塚市における主要施策と投資的経費の配分を取り上げる.前者については,市の企画部門の担当者へのヒアリングを行い,後者については,一般会計における『歳入歳出決算書』の記載から,投資的経費の地区別配分を積み上げにより算定した.

 合併後の飯塚市の主要施策には,①「健幸都市いいづか」の推進,②学校再編整備(小中一貫校の新設・整備),③協働のまちづくり(地区ごとのコミュニティ組織の設立),④中心市街地活性化が挙げられた.このうち,③はソフト事業が中心であり,①における「健幸プラザ」の整備や②・④がハード事業に該当する.このほかに,⑤中心市街地などでの浸水対策,⑥市役所新庁舎建設,⑦市立病院建替などがこの時期の大規模なハード事業となっている.

 合併直後の飯塚市は,財政収支の不均衡により,投資的経費の抑制が実施され,合併から5年程度は最低限度のレベルで事業が進められたと考えられる.その後,上記の主要施策に掲げられる大規模事業が次々と開始されたが,その結果,市中心部の飯塚地区に投資の配分が集中する傾向が確認された.一方で,学校再編整備による新校舎の建設が行われた事例を除くと,投資が低調なままとなっている地区もみられた.

 このほかにも,旧町地区を中心とした小規模施設の再編,旧町役場から移行した支所の職員数削減,旧町地区選出の市議会議員数の減少なども進み,上記の投資的経費の配分などとあわせて,「行政資源」は飯塚地区に集中する傾向がある.この点は,ある種の合併の効果と位置づけられるが,一方で,新市における中心部と周辺部の格差の拡大という合併のデメリットを発現させている現象とも考えられる.



4 合併後の行政や合併への住民の評価

 住民の評価については,2016年12月に飯塚市在住の有権者2,000名を対象とした質問紙調査を実施しており,有効回答は486通,回収率は24.3%であった.合併後の行政をめぐっては,上記の行政の再編や施策の内容を反映し,中心部から距離のある筑穂地区や頴田地区で特に厳しい評価となっている.一方で,「行政資源」集中のメリットを一番享受しているはずの飯塚地区では,合併の効果について「わからない」という回答が卓越するなど,住民の評価にも大きな地域差が生じている.



付記

本報告のうち,調査の一部は,2016年度に福岡県立大学人間社会学部において開講された「社会調査実習」において実施したものであり,当該箇所は担当教員である報告者と受講生15名の共同での研究成果である.

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