抄録
I 研究の目的
近年,資本主義諸国において,経済格差の拡大とともに社会経済的な居住者特性による居住分化への関心も高まっている.社会経済的な居住分化の形成要因として,経済格差の拡大(Reardon and Firebaugh, 2002),グローバル化による産業構造の変化(サッセン, 2008),住宅・福祉政策(Musterd and Ostendorf, 1998),などの影響が指摘されている.しかし,その経年的変化の要因については統一的な知見は得られておらず,時代や地域(国)によっても異なる.そこで本研究では,2000年以降の日本の大都市を対象として,居住分化の変化を明らかにし,その要因について考察することを目的とする.
II データと方法
本研究では国勢調査小地域集計の職業別就業者数データ(2000年と2015年)を用いて,ホワイトカラー就業者〔管理的職業,専門的・技術的職業,事務従事者〕(W)とブルーカラー就業者〔生産工程,輸送・機械運転,建設・採掘,運搬・清掃・包装等従事者〕(B)の居住分化の変化を相違指数(DI: Dissimilarity Index)により定量化した.またグレーカラー就業者(G)も含めたMultigroup DI (MDI)も用いた.なお(M)DIは0~1の値をとるが,値が大きいほど集団間の住み分けが進んでいることを示す.
対象都市は,表1に示す,2015年時点で人口の多い10都市である.また変化の要因として,Ⅰを踏まえ,次の変数(都市指標)を用意した:経済格差の指標として世帯収入ジニ係数(住宅・土地統計調査),グローバル化や産業構造の指標として第2次産業就業者割合や外国人割合,住宅政策の指標として公営住宅世帯割合(以上,国勢調査).なお,(M)DIの算出には国勢調査小地域集計に基づき,オープンソースソフトウェアのGeo-Segregation Analyzerを用いた.
III 分析結果
2000~2015年における居住分化の程度を表す(M)DIと,関連すると考えられる都市指標の変化を表1に整理した.まずDIの変化を確認すると,第2次産業就業者割合など都市指標には都市間の差があるにもかかわらず,W-B間のDIはいずれの都市も0.20~0.25程度であり,それほど大きな差があるわけではない.そして15年間での変化をみると,ほぼ変化のなかった神戸市を除くすべての都市においてホワイトカラー層とブルーカラー層の空間的分離が進んでいるといえる.しかしMDIに示されるように,グレーカラー層を含めると,居住分化の程度はほとんど変化が見られないか減少している.すなわち,全体としては混在化が進みつつある一方で,職業階層の両端では空間的な分離が進みつつあることが想定される.
また都市指標との関係を見ると,ジニ係数が高い都市や第2次産業就業者割合が低い都市でホワイトカラー層とブルーカラー層の間の居住分化が大きい傾向がみられる.しかし,その変化との関係については,必ずしも居住分化の変化と連動しているわけではないため,それぞれの都市の状況によって,これらの要因が複雑に作用している可能性がある.なお本研究では,(M)DIではとらえきれない居住分化の空間パターンおよびその変化についても考察する.