抄録
ネパール中部で大ヒマラヤに横谷を形成するトリスリ川などの河川は,山麓部海抜500-700 m の小ヒマラヤ側で,河谷沿いに現河床から120~210mの位置に,東西幅500-1000m,流路方向に数キロの広がりで明瞭な平坦面を残す高位地形面が発達する.それらに合流する支流でも大ヒマラヤに最上流域をもつものは,高位地形面が上流側に連続するような分布を示し,流域全体が埋積されたかのような分布を示すことがある.それらの高位地形面は,連続地表付近は赤色化を受け,日本的感覚ではMIS5e以前形成の高位段丘のようにおもわれるものである.筆者らは,ネパール中部の小ヒマラヤを流れるトリスリ川,ブディガンダキ川,マルシャンディ川の3河川流域において地形・地質調査を行い,前述の高位地形面構成層上部についてOSL年代測定を実施した.
ネパール中部小ヒマラヤ帯河谷を埋積するような高位の地形面は,段丘面頂部から谷底に達するような100m以上の厚い砂礫質堆積物から構成される.それら堆積物はいずれも中部厚さ50m以上で巨礫を含む不淘汰の土石流堆積物を挟んでいる. それらの3つの河川に発達する高位地形面の離水層準(合計5層準)を示す砂質シルトに対してOSL年代測定を行った.その結果,それぞれ1.9-2.8万年に離水したことが明らかとなった.従って調査地域の高位地形面構成層の特徴と離水年代から,本地域においては,最終氷期後半に大量の土砂が土石流となって流入し河谷を埋積していたことが明らかとなる.