日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 604
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発表要旨
草津白根山周辺地域の水環境に関する研究(4)
*猪狩 彬寛小寺 浩二浅見 和希
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抄録
Ⅰ はじめに
 草津白根山では発達した地下熱水系からの温泉水や、硫黄廃鉱山を源とする強酸性・高EC値の排水が周辺河川水に大きな影響を及ぼしている(猪狩ほか 2018)。また、2018年1月23日噴火の水質への影響を検討するとともに、降灰した火山灰の溶出成分と水環境への影響および、草津白根山周辺河川水における水質形成要因の検討を試みた。

Ⅱ 研究方法
 2017年5月から2019年2月にかけて20回の現地調査を行った。調査地点は山体の東側と南側を流れる河川を中心に、約45地点ほどである。現地では気温、水温、pH、RpH、EC(電気伝導度)、流量の測定を実施した。2018年2月6日に草津町の協力の下、今回噴火が発生した本白根山東麓の火山灰の分布域・降灰量の調査、サンプリングを行った。河川水以外にも、降水や積雪、温泉水の現地調査とサンプリングを行っている。

Ⅲ 結果と考察
1.周辺河川水(白砂川・万座川流域)
 周辺の諸河川には、地下熱水系や硫黄鉱山廃水の影響を受けた地下水・渓流水が流入しているものが認められた。1年以上にわたりEC値の変動が大きい地点もあり、湯川・谷沢川・大沢川といった草津白根山山頂域の酸性河川が流入する品木ダムの放流・導水に影響されている。2018年1月23日の噴火後、2018年2月より、降灰域を流域に含む谷沢川の下流地点(中和前)でロガーによる水質観測を継続している。谷沢川本来のEC値は噴火前から1,000μS/cmを超えており、硫黄の他にヒ素・鉄の成分が火山活動の度合いにより変化していると考えられる。
2.火山灰溶出実験結果(2018年1月23日噴火)
 本白根山北側火口から放出された火山灰は、北東の振子沢・清水沢の尾根に多く堆積し、既に積もっていた積雪と新たな降雪に挟まれる形で固結していた。2014年御嶽山噴火の火山灰溶出実験のEC値と比較すると、御嶽山がEC値1,000μS/cmほどであるのに対し、草津白根山の試料はEC値300μS/cmであり、積雪中にトラップされていた約1か月の間に、融雪と一緒に付着成分が溶け出た可能性が示唆される。ふるいを用いて粒径毎に分級し、63μm以上の同一試料を乾燥させながら5回連続で溶出させた実験では、SO42-やCl-、Ca2+に富んでいたものが徐々に薄まり、HCO3-、Na2+の割合が増していく様子が観察された。

Ⅳ おわりに
 今回、草津白根山の火山灰試料から溶出した成分は、御嶽山の試料に比べると少ないものの、融雪水と一緒に土壌中に浸透した可能性があり、今後は山頂域周辺土壌の溶出実験を進めるとともに、降灰分布・降灰の厚さのデータを整理し、地理的考察を深めていく必要がある。また、主要溶存成分以外にも鉄やヒ素などの分析や河川事務所で測定されている水位・流量データを整理し、負荷量の算定を進める。

参 考 文 献
猪狩彬寛, 小寺浩二, 浅見和希(2018): 草津白根山周辺地域の水環境に関する研究(2), 2018年度日本地理学会秋季学術大会発表要旨集.
大井隆夫, 小坂知子, 平塚庸治, 山崎智廣, 垣花秀武, 小坂丈予(1991):白根硫黄鉱山からの酸性坑排水の遅沢川水系河川に与える影響, 日本化学会誌, 1991(5), 478-483.
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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