日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S808
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発表要旨
包括型の地域支援拠点の形成 ―神奈川県横浜市―
*小泉 諒
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抄録
1. はじめに

横浜市では早期から地域福祉の取り組みがなされ,1974年に「横浜市地域の風土づくり推進委員会」が設置された.その後,各区の社会福祉協議会との連携や協力によって,市内で各区の特性を生かした地域福祉が展開されてきた.そのような蓄積をもとに,1991年に地域ケアシステム基本指針が制定され,横浜市地域ケアプラザ条例が施行された.その第1条には,「市民の誰もが地域において健康で安心して生活を営むことができるように、地域における福祉活動、保健活動等の振興を図るとともに、福祉サービス、保健サービス等を身近な場所で総合的に提供するため、本市に地域ケアプラザを設置する」とある.この理念において,地域ケアシステムの対象者は高齢者に限らない.しかし,当初は急激に進む高齢者への対応が必要とされ,当面は高齢者を中心に取り組まざるを得なかったとされる.

2.包括型地域支援拠点としての「地域ケアプラザ」

地域ケアプラザが他都市の包括型地域拠点と比較して特徴的な点は,地域包括支援センターと地域活動交流部門の併設し,複数の機能を持たせている点である.横浜市では地域活動の拠点と併設されることで,相談と活動を結び付けやすくすることが意図されている.地域包括支援センターは介護保険制度に基づく施設であり,ここでは,地域住民の身近な相談窓口として,介護保険の利用相談や地域の介護予防教室の案内などに対応している.地域活動交流部門では,地域活動や交流の場として,施設内の多目的ホールなどを利用した健康づくりや介護予防教室,子育てサークルなどの活動が行われている.また,地域住民が団体を立ち上げ,地域で必要とされているサービスの活動を行っている例もみられる.このような活動は多岐にわたり,対象が現在では高齢者に限らないまでに拡大していることも,地域ケアプラザの特徴の一つと言える.

3. 横浜市「地域ケアプラザ」の形成と運営

地域ケアプラザの開所年について,1991年以降を5年ごとに集計すると,1991年~1995年(第I期)が20件,1996年~2000年(第II期)が49件であった.これは,施設の過半数が2000年までに開所し,横浜市に地域ケアプラザが定着していることを示す(図1).

地域ケアプラザの担当地域は,中学校区を基準として定められている.担当地域内の人口を求めると,平均は25,533人であった(2015年国勢調査結果).しかし地域ケアプラザによって,高齢化率などその年齢構成には差異がみられた.そのため,包括型の地域拠点として地域ケアプラザに求められる役割も,担当地域によって異なることが示唆された.

施設の運営には指定管理者制度がとられ, 57の社会福祉法人に運営が委託されている(2018年現在).受託している社会福祉法人には,高齢者を得意とする社会福祉法人のみならず,障害者や医療を得意とする法人もみられた.また,過半数の72施設が,他の施設を併設していた.そのうち21施設は,市の地区センターまたはコミュニティセンターであり,地区の拠点として機能していることがうかがえる.そのほかに,特別養護老人ホームと,障碍者関連の施設との併設が9施設ずつみられた.これは,それぞれの施設における独自事業に,運営を受託している社会福祉法人の専門性が発揮される可能性を示すと考えられる.
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