日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S804
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発表要旨
神奈川県藤沢市における地域包括ケアシステム構築にみる分権型ローカル・ガバナンス
*畠山 輝雄
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抄録

.はじめに

本報告では,地域包括ケアシステムの類型(3)の「地域包括支援センターが複数の自治体における地域包括ケアシステム」の実態を考察する。類型(3)には,多様な都市自治体が存在し,類型(1)や(2)に比べて人口規模の大きい自治体が多い。そこで,首都圏郊外に位置する人口約42万の神奈川県藤沢市を事例に報告する。

Ⅱ.藤沢市の地域包括ケアシステムの概要

 藤沢市では1980年代以降に進めてきた自治体内分権の基礎となる13地区を日常生活圏域として設定し,圏域ごとのネットワークを基盤とした地域包括ケアシステムの構築を目指してきた。また,各圏域に市内の事業者に委託した地域包括支援センターを設置し,同圏域単位にセンターを中心とした「小地域ケア会議」を開催している(図)。小地域ケア会議では,日常生活圏域内の高齢者の見守りをテーマにしており,圏域内のネットワークを活用して地域の特性に合った議論が重ねられている。

 また,市内の高齢者を中心とした住民の課題解決や政策反映を目的に,全市域を対象とした「テーマ別地域ケア会議」も開催している。同会議では,認知症関連,介護・医療連携などの4テーマについて,専門職を中心に様々な事例の検討を行い,各圏域にフィードバックしている(図)。

 さらに2015年度からは,「藤沢型地域包括ケアシステム推進会議」を設置した。同会議では市全域を対象に,高齢者分野に限らずに,医療,子育て,障害者福祉,学校などの様々な分野間での連携を図り,全世代型の地域包括ケアシステムを目指している(図)。会議では,地域の相談支援体制づくりや健康づくり・生きがいづくりなどの6つの専門部会を設置し,その議論の内容を議会でも報告し,全市的な政策化を図っている。同会議の取り組みは,地域共生社会の理念とも一致している。

 以上のように藤沢市では,市全域と日常生活圏域の2層のスケールによる地域ケア会議を基盤とした地域包括ケアシステムが構築された(図)。

Ⅲ.藤沢市の地域包括ケアシステムにおけるローカル・ガバナンス

 藤沢市では,2層のスケールによる重層的なローカル・ガバナンスを形成した。また,人口の多さや多様な地域性を考慮し,日常生活圏域単位で地域包括支援センターを設置して小地域ケア会議を実施するという,分権型のローカル・ガバナンスの構築を目指した。

 この分権型のローカル・ガバナンスの課題として,日常生活圏域内の活動の良悪が,委託した法人の意識に左右されることである。藤沢市では法人の努力の結果として,日常生活圏域間の活動実績に大きな差異は生じていなかったが,他の自治体では圏域間で差異が生じている事例も報告されている(畠山2017,畠山ほか2018)。

 このため,日常生活圏域ごとの地域特性を考慮しつつ分権型のローカル・ガバナンスを構築しつつも,日常生活圏域単位の地域包括支援センターを中心としたローカル・ガバナンスをチェック、調整する自治体のメタ・ガバナンスとしての役割は大きいといえる。



文献

・畠山輝雄(2017)地方都市における地域特性を考慮した地域包括ケアシステムの構築と行政の役割,佐藤正志・前田洋介編『ローカル・ガバナンスと地域』,153-174,ナカニシヤ出版。

・畠山輝雄・中村努・宮澤仁(2018)地域包括ケアシステムの圏域構造とローカル・ガバナンス,E-journal GEO,13巻2号,486-510。

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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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