日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S210
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発表要旨
汎用・基盤的データの存続と地理教育
*橋本 雄一
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抄録

1.「地理総合」とGIS
新しい高等学校学習指導要領では「地理総合」(2単位)が必修科目として組み込まれており,その解説が2018年7月に公表された。この「地理総合」を構成する三項目の内,「(A)地図や地理情報システムで捉える現代世界」と「(C)持続可能な地域づくりと私たち」において,地図やGISの適切な活用の仕方が身に付くよう工夫することが述べられている。
2.地理教育を支える汎用・基盤データ
GISの活用としては,教員や生徒がGISを操作して地図作成を行う場合,もしくはGISで作成された地図資料を授業などで活用する場合などが考えられる。高校地理が必修化され,全国の高校の授業におけるGIS活用を考えるならば,どのような場合においても信頼性が高く全国を網羅している無料のGISデータが重要な役割を果たすと考えられる。その例として解説の中では「地理院地図」や「政府統計の総合窓口(e-Stat)」など公的機関が提供するものが紹介されている。
これらと並んで期待されるGISデータとして,国土数値情報をあげることができる。これは地形,土地利用,公共施設,道路,鉄道など国土に関する地理的情報を数値化したものであり,国土交通省国土政策局が整備している。新しい学習指導要領の解説では,(C)の中の「(1)自然環境と防災」にハザードマップ利用に関する文章があり,その作成に欠かせないGISデータが,この国土数値情報で提供されている。
解説で示される例として,避難計画や防災のための施策について考察するために,市町村役場,避難場所,消防署,病院などの防災にとって重要な施設の位置,集落の分布や規模,道路網や橋の位置などに留意する必要があることが記載されている。これらの地物を地図上で確認するために,国土数値情報が有効である。
3.国土数値情報の現状
国土数値情報の整備予算をみると,2011年度には3億円弱であったのが,2016年度には1億6千万円弱と約半分に,2018年度には約4千万円になっている。予算削減に歯止めが掛からなければ,毎年~5年毎の経年更新も難しくなり,いずれ「国土数値情報」の配信経費まで出なくなるということが懸念される。
「地理総合」のGIS関連項目に関し,魅力的な授業を行うためには,国土空間データ基盤として整備されてきた国土数値情報や地理院地図のような汎用・基盤データの存続が必須である。これらデータの整備・維持・更新について,学術的な立場で議論し,今後も提言を続けていくことが望まれる。

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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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