日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 403
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発表要旨
2016年熊本地震と清正公道に沿う被害
*渡辺 満久
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抄録

1 はじめに

阿蘇外輪山北西部の二重峠付近から西南西方向の大津町に至る地域では、尾根や斜面上に直線的な凹地があり、その一部は「清正公道(豊後街道)」として利用されている。2016年熊本地震時には、清正公道に沿っても家屋の被害が目立ち、開口亀裂等の地変も確認された。本報告では、清正公道に沿う被害の特徴、地変の様子、トレンチ掘削調査結果を中心に報告する。調査には平成30年度科学研究費補助金「熊本地震から学ぶ活断層ハザードと防災教育-活断層防災額の構築を目指して」(課題番号:16H03601、研究代表者:鈴木康弘)を使用した。

2 墓地と家屋の被害

地震発生直後の墓地調査によって、墓石の台座までが倒壊するような非常に強い揺れがあったことが確認できた。既知の活断層から北へ遠ざかると被害の程度は小さくなるが、清正公道付近において被害は再び大きくなるように見える。

清正公道に沿っては、家屋にも甚大な被害が発生しており、大津町の家屋被害図を見ても全壊・大規模半壊が目立つ。とくに古い家屋が多いわけではない。清正公道碑では、4本のボルトで固定されていた石碑が北方向に倒壊するなど、石碑の被害も非常に目立っていた。また、埋設された石柱が飛び出したり傾斜したりしていた。

3 清正公道に沿って連続する地変(東→西の順に記載)

豊後街道と県道23号線が交わる地点(阿蘇カルデラ)では、2cm程度の右ずれが生じていた。倒壊した清正公道碑付近では、北側が数~10 cm程度隆起するような変位が確認できた。新小屋の消防団倉庫付近では、最大で10cm変位(南側隆起)が認められ、数cm程度の右ずれも確認できた。さらにその西方では、右ずれ型のpull-apart basinが形成されていた(南北幅1.6m、東西長3.5m以上)。地溝を形成している地震断層の鉛直方向の断層変位量は、最大で8cm程度であった。

清正公道碑から西方へ約1.5 kmにわたって、断続的ではあるが、非常に直線的に地変が連続していた。上下の成分では、東部で北上がり、西部で南上がりであった。

4 トレンチ調査結果

地変が残されている新小屋において、トレンチ掘削調査を実施した。ここでは、杉型雁行する複数の開口割れ目が形成され、南側が約10cm相対的に隆起している。トレンチ壁面では、上位から、アカホヤ火山灰を含む黒土層(約1.5 m)、スコリヤ層や軽石層を含む褐色の風成ローム(約2 m以上)が確認できた。また、清正公道を埋めた人工層(3 m以上)も確認できた。

地変は、清正公道の埋土と地山との境界付近にあり、地下へ連続するような断層構造は確認できなかった。壁面の地層には、明瞭な変位の累積はないが、黒土や軽石の高度は、地変付近が最も高く、緩やかな高まりが形成されている可能性がある。なお、埋め土には、速報流動に伴うような圧縮変形はみられず、地変直下のローム層には多くの亀裂が認められる。

5 考察

墓地や家屋の被害が顕著であり、ボルトで固定された石碑が倒壊するなど、清正公道に沿って強い震動が発生したことは疑いない。

地変は清正公道を埋めた人工層と地山との境界付近で発生しており、強い震動によって埋土が移動した結果形成された可能性がある。ただし、地表変形部の直下のローム層には多くの亀裂があり、地変は緩やかな高まりの頂部で形成されているため、地殻変動の結果である可能性を否定できない。

また、清正公道に沿って認められる地変は非常に直線的に連続しており、円弧状の開口亀裂ではない。さらに、いずれの地点でも右ずれ変位や、右ずれを示唆する開口割れ目の配列を確認することができる。これらのことから、清正公道に沿う地変が、埋土の移動によるものと結論することも困難である。

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