日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 217
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発表要旨
鹿児島市中心部における都心機能の分布とその変容
九州新幹線開通による駅周辺開発に着目して
*有村 友秀
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抄録

1.はじめに

 都市の中心部に集積する高次の都市機能は都心機能とよばれ,その集積過程や機能分化が解明されてきた(戸所 1975等).また,「駅周辺地区−中心市街地」の競合関係に着目した研究では,中心市街地から駅周辺地区へ都市の中心部が移動することや,JRによる駅ビル開発が中心市街地へ大きな影響を与えたことが解明された(高野 2004,長ほか 2012等).本研究では,九州新幹線の開通によって駅周辺開発が進展した鹿児島市を事例に,駅周辺開発が中心市街地に与えた影響を分析し,都心機能の分布とその変容を明らかにした.



2.九州新幹線の開通と駅周辺開発

 九州新幹線は,2004年に鹿児島中央−新八代間,2011年に博多までの全線が開通した.鹿児島中央駅周辺では,開通と同時期に様々な開発が行われたが,開発で誕生した施設は,①宿泊施設,②オフィスビル,③商業・飲食施設に大別される.これらの施設はそれぞれ,①宿泊機能,②業務管理機能,③商業・飲食機能を有しており,既往の都心機能研究で都心への集積が指摘されている機能である.したがって,本研究ではこの3つの機能について分析を行った.



3.各都心機能の変容

(1)宿泊機能

 駅周辺開発では,域外資本チェーンで大型のホテルが誕生したが,中心市街地においても同様のホテルが同時期に開発されていた.各施設の特性にも大きな差は認められないため,「駅周辺地区−中心市街地」の競合関係に変化はなかった.

(2)業務管理機能

 駅周辺開発では,付加価値の高いインテリジェントビルが誕生した一方,中心市街地における新ビルの誕生はなかった.駅周辺地区に誕生したビルは,基準階貸室面積の広さや天井高,最新設備が魅力であり,中心市街地からのオフィス移転やオフィスの新設が行われた.オフィスの業種や部門において両地区の構成比が類似し,競合関係は駅周辺地区が強化され中心市街地に匹敵した.

(3)商業・飲食機能

 駅周辺開発では,鹿児島初出店のテナントが大多数を占める,JRの駅ビルが誕生した.一方中心市街地では,駅ビル内での出店へと店舗が流出した事例や,百貨店が閉店した事例が発生した.百貨店はテナント集積型の商業施設に生まれ変わったが,その求心力は鹿児島初出店テナントへ依存しており,駅ビルと同様の戦略を取らざるを得なかった.歩行者通行量は,中心市街地の値を駅周辺地区が逆転しており,商業統計でも中心市街地の優位は失われていた.競合関係は,駅周辺地区が強化され,中心市街地を逆転した.一方飲食機能は,駅周辺開発で新たな飲食施設が誕生したが,一般の飲食店とは性格が異なるため,競合はなかった.



4.おわりに

 宿泊機能は,両地区共に強化され,中心市街地が優位を維持している.業務管理機能は,駅周辺地区が強化された一方中心市街地の機能は維持され,二核心となった.商業・飲食機能は,駅周辺地区のみ強化され優位となった.都心機能の変容は三者三様だが,全体として鹿児島市の都心は二核心となり,新しく核となった駅周辺地区の機能強化が大きく寄与するかたちで,都心機能が強化されていた.



〈参考〉

・高野誠二 2004. 日本における都市中心部の構造変容─鉄道駅周辺地区と中心街の関係から. 季刊地理学56: 225-240.

・長 聡子・芳賀博文 2012. 大規模駅ビル再開発と土地利用の変化─札幌,名古屋,福岡を事例に. 都市政策研究13: 11-20.

・戸所 隆 1975. 名古屋市における都心部の立体的機能分化. 地理学評論48: 831-846.

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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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