日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S212
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発表要旨
中学校から高等学校「地理総合」への接続
*青柳 慎一
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抄録

1 中高の接続について考える視点
 今回の学習指導要領改訂では,公民としての資質・能力を,小学校,中学校,高等学校での学習を通して一貫性をもって育成していく視点が一層求められていると考える。そこで,本発表では,中学校社会科から高等学校地理歴史科「地理総合」への接続について,中学校社会科で身に付けた知識や技能,社会事象の地理的な見方・考え方などの活用がどのように「地理総合」の学習と接続していくのか,そして,「地理総合」への接続を図る上でどのような課題があるのか,中学校の立場から考えることとする。
2 内容構成から見た関連
 「地理総合」の大項目A「地図や地理情報システムで捉える現代世界」では,地球儀や地図の活用に関する技能など,中学校での既習事項を十分踏まえた学習活動の工夫が求められる。「地理総合」では地誌的な学習は設定されていないが,中学校の地誌学習で習得した知識・技能や見方・考え方も活用して課題追究していくことが学習指導要領等の記述から読み取れる。例えば,中学校の「世界の諸地域」では,空間的相互依存作用や地域などに着目して課題を追究していく。その際,世界各地で顕在化している地球的課題を取り上げる。ここでの学習は「地理総合」の大項目Bの「地球的課題と国際協力」で地球的課題について現状や要因,解決の方向性などを考察する学習と関連する。また,中学校の「日本の諸地域」の学習で自然環境を中核とした考察の仕方を位置付けた場合,自然災害に応じた防災対策が地域の課題となることなどについて考察する。これは「地理総合」の大項目Cの「自然環境と防災」の,自然災害への備えや対応などを考察する学習と関連する。空間的相互依存作用や地域などの地理的見方・考え方については「地理総合」の大項目Bの「地球的課題と国際協力」,大項目Cの「自然環境と防災」,「生活圏の調査と地域の展望」といった中項目に位置付けられている。なお,社会事象の見方・考え方については,中学校から高等学校へと校種が上がるにつれて視点の質やそれを生かした問いの質が高まるよう主題設定や問いを工夫していくことが望まれる。地理的技能については,中学校の地誌学習の中で地域を概観したり主題を設定して追究したりする際に,地図帳の一般図や主題図,写真や統計資料などを読み取ったり,収集した情報を地図化,グラフ化したりする。これらの地理的技能は「地理総合」の学習においても習熟を図るよう計画的に指導することが求められると考える。「地理総合」の大項目C「持続可能な地域づくりと私たち」では,中学校の「地域調査の手法」,「地域の在り方」での野外観察,野外調査を含む地域調査活動,地域的な課題の解決に向けて考察,構想する学習活動と関連する。
3 「地理総合」への接続を図る上での課題
 中学校での学習成果を踏まえて「地理総合」の学習が展開されることを考えると,中学校での「課題を追究したり解決したりする学習」を充実させていくことが,「地理総合」の学習の土台となると捉えられる。特に,地誌学習で地理的な見方・考え方や地理的技能を身に付けさせていく指導方法の工夫改善,野外観察や野外調査の取組,今回の学習指導要領で新設された「地域の在り方」の授業設計などが「地理総合」への接続を図る上でも中学校社会科地理的分野の指導上の課題になると考える。それと合わせて課題把握,課題追究,課題解決といった学習の過程を踏まえ,小学校,中学校,高等学校を見通した資質・能力の育成についても検討し,その成果を指導計画に位置付けていく作業も必要になると考える。

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