日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 216
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発表要旨
空き家問題と地域再生をめぐる住民と大学の協働
青森市・幸畑団地と青森大学の事例から
*櫛引 素夫西山 弘泰
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抄録

1.はじめに
 青森大学は2013年から、立地する青森市・幸畑地域を対象に、交流をベースとした教育・研究・地域貢献活動「幸畑プロジェクト」を展開してきた。特に幸畑団地(人口約4,500人、約2,300世帯)との協働に基づく住民ニーズに応じた空き家調査、住民主体の空き家活用の試行などが進展、転入の実態も明らかになった。成果の一部は2014~2018年の日本地理学会、東北地理学会で報告した。
 本研究では5年間の活動を総括し、幸畑団地の空き家発生から再利用・住宅新築に至るプロセスを分析するとともに、空き家をめぐる課題や調査活動について、①地域社会における位置づけ、②大学が果たすべき役割、③地域の将来像の検討と構築に大学や地理学はどう関わり得るか、といった観点から考察する。

2.幸畑プロジェクトの進展
 幸畑団地は、青森市がコンパクトシティ政策で脚光を浴びた2000年代に、高齢者の街なか居住や子育て世代との「住み替え」のモデル地域として各種施策が進められた。しかし、その結果、皮肉にも「衰退する郊外の象徴」という意識が青森市内や地元に浸透、2013年ごろには住民自身も人口減少や空き家増加に危機感と不安を抱いていた。
 発表者は、団地内で空き家の悉皆調査を初めて実施するとともに、住民への報告会を企画した。一連の過程で地域や大学と情報・認識の共有がなされ、さまざまな協働の起点ができた。2014年には青森大学を交えて幸畑団地地区まちづくり協議会が発足し、その後、空き家活用試行や「お試し移住」体験に取り組んだ。

3.経緯と成果
 空き家調査を端緒として、定期的に幸畑団地を調べ、結果を住民、市内の行政・不動産関係者らと検討する仕組みが整った。調査は常にまちづくり協議会と大学との共同作業として設計、実施し、信頼関係の深化や住民の主体性構築を重視した。2016年には地元町会と学生が合同で新規転入者の調査票調査を実施し、県内の多様な地域から住民が集まっている状況を把握できた。
 2018年に5年ぶり2回目の悉皆調査を実施した結果、過去の調査と併せて、①人口減少と高齢化は市平均を上回るペースで進行している、②にもかかわらず住宅の新築が進み、5年で120軒前後が新築された可能性がある、③空き家や空き地を再利用して住宅を新築した事例が多数存在する、④最大要因は安い地価と乗用車2台以上を置ける敷地の広さである、⑤新築を含め、地区によっては年に1割程度の住民が借家を中心に入れ替わっている、⑥子育て世代を中心に住宅新築を伴う転入が続いており、30年後を視野に入れた地域運営の検討が急務である、といった状況が明らかになった。
 空き家は、単身・夫婦の高齢者の入院や遠方の子どもによる引き取りなどによって発生するが、配偶者との死別後、空き家に戻り再居住を始めた住民も確認された。また、新築・リフォームに伴う転入者は①幸畑団地で育って転出後、親の近くへ転入、②市内の他地域出身者が転入、③市外出身者が転入、といったケースがあることが分かった。
 青森大学は地域との接点を持たず卒業する学生が少なくなかったが、近年は地域貢献演習などのカリキュラムが充実、地域が協働対象として定着している。

4.展望
 空き家問題は「地域住民がどこまで関与するか、できるか」が大きな焦点となる。危険空き家が発生してしまえば、法的・技術的には、一般住民の手が届きにくい。しかし、空き家発生につながる可能性が高い高齢者世帯などを対象に、事前に周囲と対応を相談する仕組みをつくるなどの対策を講じれば、発生抑止が期待できる。地域の見守り活動などと絡め、空き家やその前段階の家屋の活用・維持を考えていく上で、「空き家問題を地域として受け止め、考える」機運の醸成は重要である。
幸畑団地の空き家が減少しているとはいえ、幸畑プロジェクトそのものが「物件としての空き家の解消」「空き家の継続的活用」につながっているわけではない。コミュニティ衰退に伴う課題も山積している。それでも、空き家問題への取り組みは地域の実情把握や意識変革、協働の起点となった。幸畑地域は現在、青森市全体の将来像を考える人々の拠点となりつつあり、市域をカバーする「地域メディア」づくりが、幸畑を中心に始まっている。また、筆者らが2018年12月に青森大学で開催した「幸畑団地居住フォーラム」では、出席者から、空き家調査・対策にとどまらず、地域と大学の協働をベースに、学生も主役とした、創造的な〝攻め〟の地域づくりを期待する提案がなされた。
「物件としての空き家問題」を超えた持続可能な地域づくりに向けて大学の役割は重要である。また、時間・空間と「人の生き方」を軸に、地域に併走できる地理学には、大きな優位性と使命があると結論づけられよう。
(JSPS科研費15H03276・由井義通研究代表)

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