日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 503
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都市街区気象LESモデルを使用した オフィス街と住宅街の暑熱要因比較解析
*鎌田 碧日下 博幸
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抄録

これまでに街区内に着目した暑熱研究は数値実験によって数多く実施されてきた。街区内の暑熱要因を正確に解明するためには、建物や樹木を陽に解像して街区内の3次元流れを考慮し、大気安定度も考慮する必要がある。先行研究ではCFDモデル、ENVI-metモデルなどを用いた数値実験によって街区内に着目した暑熱研究が実施されている(Ashie and Kono 2011; Wang et al. 2016など)。しかし、これらのモデルは建物や樹木を陽に解像できる反面、大気安定度を中立大気でしか表現できないという問題がある。 そこで、本研究では街区内の3次元流れを解き大気安定度を考慮できる都市街区気象LESモデルを使用して、オフィス街と住宅街の暑熱環境要因を比較解析する。

 本研究で採用する建物形態はオフィス街と住宅街とする。オフィス街は東京都新宿駅西口、住宅街は東京都中野区弥生町をモデルとして理想都市を作成し、両者の街区内暑熱要因を比較する。また、熱環境の評価方法は体感温度に近い温熱指標である湿球黒球温度(WBGT)を用いる。  使用モデルは筑波大学計算科学研究センターで開発されている都市気象モデルである都市街区気象LESモデルを使用する。  計算期間は猛暑を記録した2018年7月23日とし、計算時刻は11:00~12:00の日中1時間とする。

 数値実験の結果、先行研究と同様にオフィス街と比較して住宅街の熱汚染が深刻であった(大橋ほか, 2010;日下ほか, 2019)。住宅街の暑熱要因をオフィス街と住宅街の建物形状、建物素材、街路樹、人工排熱に着目してそれぞれ感度実験を実施した。 住宅街の局所的な暑熱要因として最も影響が大きかった要素は建物形状で、住宅街とオフィス街のWBGT差(住宅街-オフィス街)は3.89℃であった(図左上)。オフィス街と住宅街での建物形状の違いにより、建物影と風通しに大きな違いが生じる。このうち影響度が高い要素を解明するために黒球温度の推定式(Ohashi et al. 2010)を用いて考察した。その結果、建物影のみの違いによって住宅街のWBGTが約1.4℃相対的に高くなり、風通しのみの違いによって住宅街のWBGTが約3.2℃相対的に高くなった。以上から、建蔽率の違いによる風通しが暑熱の主要因であることが明らかとなった。街区内領域平均した場合でも同様に風通しが暑熱の主要因であった。局所的な影響と領域平均した場合の影響とで大きく異なる反応を示した要素は街路樹と建物素材である。街路樹は局所的に大きな暑熱緩和効果(図左下)があるが、建物素材の影響は微小ながら広範囲に及ぼす(図右上)。

 都市街区気象LESモデルを使用し日中の街区内熱環境を評価した結果、オフィス街に比べて住宅街の熱汚染が深刻であり、その主要因は住宅街の建蔽率が高いことによる風通しの悪さであった。建物影や街路樹は暑熱要因の影響度が大きいが影響範囲は狭い。建物素材は暑熱要因の影響度は小さいが影響範囲は広い。

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