日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S103
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中国地誌学習に関する自然地理的内容の扱いの検討
日中の中学校地理教科書の分析を通して
*澤田 康徳
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抄録

目的:近年の地球環境問題の解決に向けて,国際理解などの観点から他国の自然地理関連の学習を理解する重要性は高まっている.日本の隣国で環境変化の著しい中国については,地理教科書に基づき,視覚教材の量的特徴(田忠 2012)や,日本に関する自然の扱い(南 2019)が示され,さらに自国中国の自然地理学習の教材内容についても議論を深める必要があろう.また,世界の諸地域学習では,事例地域の学習内容は自国地誌に比べ当然部分的となる.日本で諸地域事例として扱う中国地誌の学習内容と,中国における自国地誌の地域的特色の学習内容の相違性を捉えることは,日本の中国地誌学習が中国のどの領域を大観することになるかを知るてがかりになる.本研究では,日中の中学校地理教科書から,自国地誌の地域的特色および世界の諸地域事例の両国の項目について,自然地理に関わる視覚教材(図・表・写真)の特徴を日中で比較検討する.日中とも世界の自然地理的内容の学習で大半を占める気候も視覚教材の特徴を捉えた.

方法:分析には,2021年現在,中国の首都北京で使用されている2つの出版社(市教育委員会編のA,中国で最も多用されるB,2017~2018年印刷),日本の東京都で多く使用されている2つの出版社(a,b,2021年印刷)の中学校地理教科書を用いた.本研究では,学習項目を頁数,視覚教材の内容をタイトルに基づき量的把握を行った.視覚教材は,自国の地域的特色に関する小項目(地形・気候・災害・資源エネルギー)と世界の気候を対象とした.視覚教材のタイトルは,自然・人文の地理的内容,形容表現,図表現や場所および時間に関する語などで構成される.地理的内容の自然・人文の総語数に対する種別の語の出現割合(%)から,視覚教材の特徴を把握した.

結果:自国地誌の地域的特色における自然地理の項目で,視覚教材の自然地理的内容の語の割合(図1)は,割合の差(日本-中国)が地形関連の語は多くで正,水文関連の語は負を示す.日本では地震や山地~沿岸の地形関連の語が多いが,中国では長江や黄河,流域など水文関連の語が多い.気候や資源エネルギー関連の語では,割合の差が小さいが,気候の降水や資源エネルギーの水資源とも負を示し,中国では水関連の内容に重点がおかれている.日本の中国地誌の項目で,視覚教材の自然地理的内容の語は,大気汚染および太陽光発電と高地が認められた.アジア州の事例地域としての中国は,経済発展と課題が主題となることが多いが,大気汚染のほか,水文環境は中国の生活や経済活動の基盤であり課題も多い.中国の経済発展や課題の理解を深めるには,水文関連にも焦点を当て,地図帳の活用や水文関連の内容を含むアジアを大観する項目の学習の充実化が重要である.世界・自国の気候と気候以外の自然地理の項目の頁数の割合(図2)は,日中ともに気候で世界が自国より大きく,気候以外で世界が自国より小さい.世界と自国の割合の差の比は,気候で4.4,気候以外で1.1と日中の学習項目の量的差異は気候で顕著である.これは日中で世界の気候の項目は割合がほぼ同じであるのに対し,日本で自国の気候の項目の割合が小さいことによる.ただし世界の気候の視覚教材タイトルの語の割合(図3)は,中国で気候関連の語の割合が大きく,日本では人文関係の語の割合が大きいといった教材の異りが認められた.日本では,中国地誌より先習の世界の気候で,降水に注目した気候と人文環境を連関させた学習が想定され,その理解の定着が中国の大観的理解に重要である.

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