日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 417
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北京旧城におけるアーバン・リニューアルの現状と住民構成の変化
*何 晨
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抄録

1. 研究の背景

  本研究では,北京旧城におけるアーバン・リニューアルの現状を明らかにするとともに,住民構成の変化を考察する。中国の都市政策は,計画経済の下で都心に工場や工場労働者向け住宅が混然と建設された1949年から1980年代[いわゆるタンウェイ制・工人新村時期],および改革開放政策が進み市場原理のもとでアーバン・リニューアルが進む1990年以降に区分される(潘2021)。

 北京旧城の場合,1990年代以降のアーバン・リニューアルは,以下のように整理できる。①1990年代[老朽化著しい胡同の大規模な取り壊し(図1)],②2000年代初頭[歴史文化保護区における胡同の改修・保全],③2015年以降[公房(雑院その他の公営住宅)住民の自主的な転出]。

 ①では老朽建造物が強制的に解体されたため,多くの旧住民が転出せざるをえなかった。跡地には高級な大規模住宅団地や公共施設,道路が建設された。②は北京オリンピック開催を念頭に置いた,歴史文化保護区の保全事業である。政府が旧住民に立ち退きを求めることはなかったが,地価の高騰により,自宅を賃貸に回す住民も多かった。賃貸物件には,北京で働く若い地方出身者が多数入居した(何2019)。③では,高額の立ち退き料や郊外でのマンションの提供を条件に,政府が旧住民に自主的な転出を求めている。

2. 研究方法

  北京市東城区のA地区[外交部街胡同内に位置する公房の雑院および私房(個人所有が認められた団地内の住宅)]を調査対象とし,住民構成の変化を1990年代から遡って全数調査した。特に2015年以降の変化に着目した。外交部街胡同は,天安門広場や王府井(北京を代表する中心商業地域)に近い胡同である。調査内容は,歴代の住民の出身地や家族構成,部屋の所有の有無,転入・転出の経緯,移転先・移転元などである。

3. 調査結果

 調査の結果,2015年代以降に住民構成が大きく変化していることが明らかとなった。公房(雑院)では,すべての住民が短期間のうちに転出した。空いた公房の今後の用途は不明である。また私房でも,不動産価格や賃貸価格の高騰により,自宅を売却あるいは賃貸に回し,自身は郊外に転居した旧住民が多い。売却された部屋には,会社経営者や大学教授などのいわゆる高額所得者世帯が入居した。地元の名門小学校に子息を通わせるために転入した世帯も見られる。一方,賃貸物件には地方出身の若者たちが共同生活しているケースが目立つ。

[参考文献]

潘藝心2021.中国年における内城/インナーシティとその変容-江蘇省無錫市を事例として―.地域と環境 16:31-60.

何晨2019.北京・什刹海歴史文化保護区における観光要素の変容―北京オリンピック以降の変化―. E-journal GEO 14(2) :364-377.

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