日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P034
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1990年以降の大学進学移動の変化
地方圏内部での大学進学移動に関する仮説生成
*栗林 梓
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抄録

Ⅰ はじめに

 戦後,日本では大学進学率が上昇し,同年齢人口の50%以上が大学に進学するようになった.大学進学は多くの人々にとって重要なライフイベントとなり,「どこの大学に進学するか」という進路選択は,私たちにとってより一般的な問題になったといえる.

 しかし,大学教育の供給には地域間格差があるため,大学進学率にも地域間格差がある.とりわけ,1990年以降は,大学教育の供給の地域間格差の拡大が大学進学率の地域間格差を拡大したとの見方が有力である.大学教育の供給が相対的に少ない地域では,経済的・心理的な制約を乗り越え,県外に進学することができるか否かが大学進学の重要な要素の1つとなる(朴澤2016など).

 以上のような点を踏まえ,大学進学移動について議論するにあたっては,川田(1992)のような空間的な視点が拠り所となる.しかし,管見の限り,日本全国を俯瞰する大学進学移動の地理学的研究は川田(1992)以降,研究蓄積が少なく,1990年以降の動向については議論の余地がある.

Ⅱ 研究目的・方法

 以上より,本発表の目的を,1990年以降の大学進学移動の変化の実態を明らかにすることとする.また,本発表では,それらの変化の要因について,既存の調査や先行研究に依拠しながら,仮説生成を試みる.

 データには主に,『学校基本調査』の「出身高校の所在地県別入学者数」を用いた.当該データからは,大学進学移動に関する都道府県別のODデータを入手することができる.分析手法は,川田(1992)に倣った.具体的には,都道府県別に,収容率1)・占有率2)・吸引圏3)・進学先の割合4)等を算出し,大学教育の供給および大学進学移動の変化の実態について整理した.

Ⅲ 結果および当日の議論

 1990年と2020年の両年において,東京圏5),京阪神圏,広域中心都市を擁する宮城県や福岡県などが,比較的広域から大学進学者を集めることに変わりはない(図1).ただし,43道県では東京圏への進学率が低下していることがわかった.吸引圏10%でみた場合,その吸引圏は縮小し,東京圏に10%以上流出する都道府県は34道県から20道県へ減少していた.

 他方,県内進学率は41都府県で上昇していた.また,収容率の変化分と県内進学率の変化分には,有意な正の相関関係が確認された(R2=0.43,p<0.01).他方,県内進学率の変化分と県外地方圏(自県以外の地方圏)への進学率の変化分には有意な負の相関関係が見出された(R2=0.49,p<0.01).県内進学率が上昇しなかった地域では,進学先としての県外地方圏の位置付けがより上昇したと考えられる.大学進学移動の空間的特性,移動方向性,他の指標の関係性,属性別(設置主体別・男女別),の詳細な分析結果については当日に提示,議論したい.

1)収容率=ある都道府県における大学入学者数÷大学進学者数×100,2)占有率=ある都道府県における県内進学者数÷大学入学者数×100,3)吸引圏とは,ある都道府県が,特定都道府県の大学進学者の一定割合以上を吸引している圏域のことをいう.,4)進学先の割合=特定地域への大学進学者数÷大学進学者数×100,5)便宜的に大都市圏を東京圏(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)・名古屋圏(岐阜県・愛知県・三重県)・京阪神圏(京都府・大阪府・兵庫県・奈良県)とする.そして,それ以外の日本の地域を地方圏とする.

文献

川田 力 1992. わが国における教育水準の地域格差-大卒者を中心として.人文地理44: 25-46.

朴澤泰男 2016.『高等教育機会の地域格差-地方における高校生の大学進学行動』東信堂.

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© 2022 公益社団法人 日本地理学会
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